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「わ、綺麗!」
蛍と歩いていると、急に視界が開けた。目の前には一面の海。
「こんな良いところあるんだね」
「穴場だね」
「歩いて良かった!あ、写真撮ろうよ」
蛍の手を離し、カバンからスマホを取り出す。
画面に映った蛍は、少しだけ口元を緩めていた。
「戻ろっか」
歩き出した蛍の隣に並ぶ。良い景色も見れたし、写真も撮れたし私の機嫌は上々だった。
他愛もない会話をしながら、少しずつ空いている左手が寂しくなってきた。スマホを取り出すときに離れた手。
チラリと蛍の右手を見ると、ジャケットのポケットに隠れてしまっていて。隠れた手を見て、もう一度手を繋ぎたいという勇気は無くなってしまった。
その後、海の近くにあった美術館に行って、帰り道にお寿司を食べて、帰った。
手は、もう繋がなかった。いや繋げなかった。
「今日はありがとう。ひさしぶりで楽しかったよ」
「うん。こちらこそ」
「また来週の月曜日にね!次はどこ行こっか」
「そうだね。考えとくよ」
「......じゃあもう遅いし...送ってくれてありがとう」
「...うん。またね」
帰りも蛍は家まで送ってくれた。少しだけ話した後、ひらひらと手を振って去っていく。
私が考えすぎて蛍に気を遣っていたせいか、今日は疲れた。確かに楽しかったけど、蛍が帰った後も暗い気持ちのままだ。
でも、最後に私に手を振った蛍の右手薬指には、ちゃんとペアリングがあった。
「......今日はゆっくり寝よう」
その日はいつもより早くベッドに入ったけど、なかなか寝付けなかった。
日曜日。今回の帰省で2回目の蛍とデートする前日。
《大学で面談があって会えなくなった。ごめん》
蛍からのラインをじっと見つめる。金曜日に送ったラインの既読がやっとついて、帰ってきた返事がこれだった。
胸の奥から込み上げてくるものを必死に飲み込んで、何とか返事をした。
《そっか!お疲れ様。夜ごはんだけでもどうかな?》
結局そのラインに既読がついたのは、月曜日の21時。ごめん、とだけ返事が来た。
苦しかった。返事が来ないことが、会えないことが、蛍の気持ちがわからないことが、それでも蛍のことが好きな自分が、全部苦しかった。
でも弱い私は、自分の気持ちを飲み込むことしかできなかった。
《お疲れ様。大変そうだね〜また水曜日に会えるし楽しみにしてるね!》
孤独感や寂しさを蛍に悟られないように、明るく返事をした。
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作者名:いおり | 作成日時:2021年9月23日 23時