夢、抗う。 ページ2
「ーーの……」
「ーーぇ、ね……ちょっと……」
「あのー！ちょっと!?」
「え……あ、」
周りの声がちゃんと聞き取れだして、やっと目を開ける。
……あ、手、つけてたのか。
「あなた倒れたんだよ。わかる？頭打ってないね？」
「立てないの？」
「ちょっと、そこ邪魔なんですけど」
「すみません……大丈夫、です」
まだ少し目が回ってて、立ち上がったもののふらふらと覚束ない足取り。
その場を離れると人が波のように扉の向こうに流れていく。奥から来た人にもちらちらと二度三度顔を見られて、そんなに騒ぎにしてしまったのかと熱が集まった。
……とりあえず、降りよう。
駅で少し休んでいけば大丈夫だろう。なんたって一本早い電車に乗ったのだから、時間にも余裕がある。
ホームに設置されたベンチに駆け寄り、一息つく。
少しぼーっとしていたけど、なにか落としていないか確認しないと。車内を見た限りは大丈夫だったと思うけど……
肩から斜めに提げた鞄を手をかけ、
……
手を、かけ、……
ん？
他にも確認すべきことがあったみたいだ
俺はしがない中年と熟年の境にいるサラリーマンで、
毎朝決まった服を着、鞄を持ち、靴を履き、電車に乗り、
黒いスーツ、濃紺のネクタイ、銀のネクタイピン、
黒い靴に鞄。
息って、どうやって吸うんだったんだろうか。
ーー待て。
ーー俺はそれを、どこにやったんだ？
焦りと混乱と恐怖が一瞬にして体の隅々を支配する。
さっき挙げた服も靴も鞄も、俺は何一つ備えてない。
なんで？ボケた？この歳で……いや、こんなに突然に？
誰かが俺の体を乗っ取って着替えた？
いや、そもそも現実なのか。俺、なにしてるんだ？
俺、今誰なんだ？
「……無理ッ…………」
嫌な汗が背中をつっと伝ったとき、たまらず走り出した。
トイレのマークを見つけて駆け込む。
もうどうせ遅刻だ。
顔をバシャバシャ洗い、犬のように頭を振った。
落ち着かないと。
荒い息のまま、上を向くと、
「あ」
「……う、……おえぇぇッ…………」
いなかった。
毎朝決まった服を着、鞄を持ち、靴を履き、電車に乗る、しがない中年と熟年の境にいる、サラリーマンの俺は、鏡に映っていない。
代わりにいるのは、記憶にない真っ青な顔。
誰なんだお前。誰なんだ、俺。
夢なら、早く覚めてくれ。
覚めて、さめろ、と、切に願った。
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mask(プロフ) - いいえ、こちらこそすみませんでした。ご丁寧な返事ありがとうございました。次の更新を楽しみにしてます！ (2018年5月31日 22時) (
レス) id: b5f8d2284e (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - maskさん» それでも分かりづらい時はお手数おかけしますがもう一度コメントしていただけると嬉しいです。そこでまた考えようと思います。ご要望に沿えず申し訳ありません。 (2018年5月27日 10時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - maskさん» コメント、応援ありがとうございます！名前表記の件ですが、今のところはまだ要検討ということでお願いします。これから日常パートでメンバー同士の会話も増やしていこうと考えていて、なるべく描写や口調で見分けられるようしていくつもりです。 (2018年5月27日 10時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
mask(プロフ) - 誰がどのセリフを言ってるのかあまりわからなかったので、「」の前に喋っている名前を付けていただけると嬉しいです…！それとは別に、自分が何者かいまいち謎なまま進んでいく物語というのが新鮮で、すごく面白いです！頑張って下さい！ (2018年5月26日 18時) (レス) id: b5f8d2284e (このIDを非表示/違反報告)
しゃおとぅん(プロフ) - ツバキさん» コメント、アドバイスありがとうございます！次の更新で取り入れようと思います！ (2018年5月4日 12時) (レス) id: fd1bf708ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しゃおとぅん | 作成日時：2018年4月22日 6時
