仲直り ページ31
映画館に着いた私たちは少し険悪な雰囲気のままジュースやポップコーンを買うと中に入った。
が、入り口に踏み入れた途端、足が止まる。
「………。」
「………。」
「まさかとは思ってたけれど、………いるわね」
「あぁ、いるな」
以前はホラー映画でも上映されていたのか、低級呪霊の姿がチラホラある。
「このままだと気が散るわ」
「だな…」
言うや否や私たちは行動に出る。
別れて自分の席を探しながら、さりげなく祓っていった。
人の目があるので、さすがに全てを祓うのは無理だったけれど、ある程度祓ったお陰で快適に映画を観る環境が整えられた。
「私、4。悟は？」
席に腰かけて隣の悟に尋ねる。
「6だ」
勝ってたらお昼をおごって貰おうと考えていた私は思わず舌打ちする。
「お前、何か企んでただろ」
サングラスをずらした悟が、見透かしたような目で私を見てくる。
「ただ数が気になっただけよ」
「どうだろうな？」
「そんなこと…っ！」
ハッとして口をつぐむ。
仮にもここは映画館だ。
騒ぎ立てるのは良くない。
「あのカップル、ケンカ？」
「ってか、彼氏の方かっこ良くない？」
「綺麗な色の髪〜」
「目も透き通ってて綺麗〜！外国の人かな？」
そんな声が視線と共に注がれる。
聞こえてくるそれらに、悟が得意気な笑みを浮かべている。
「ぅ…」
「つー訳で仲直り、な？」
言うや否や、スッと私の手を取ると周囲に見せつけるように上の方に掲げて手を繋いでくる。
「な………！！！」
この状況では「離しなさいよ！！」と手を振り払うことも出来ない私。
顔が熱くなっていくのが自分でもよく分かった。
悔しい！！
よく分かんないうちに勝負にも心理戦にも負けた気がする！！
このまま引き下がってたまるか！！
「…しっ、仕方がないから、お昼は悟の奢りってことで許してあげる！」
フイッと顔を逸らす。
今だけは悟の顔が見られない。
まだ上映前で明かりが付いているとは言え、館内は仄かに薄暗い。
赤くなっているかもしれないこの顔に気付かれていないことを祈りながら、私は映画が始まるのを待った。
その間、手は繋がれたままだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 136人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：月見 | 作成日時：2022年11月8日 22時
