浅瀬を泳ぐ魚達 (ページ45)

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『綺麗…』

ゆっくりと地上を離れ

夜空へと近付いていく観覧車の中

隣に座るのはまだ恥ずかしくて

お互い、向かい合わせに座った

私はひとり、窓の外広がる夜の街を
ずっと眺めていた

ザカオくんと2人きり

言ってしまえば、ここは密室で

顔を合わせたら、それを変に
意識してしまいそうだから

逃げるように、外を眺めていたんだけど

頂上に近付いてきて

せっかくザカオくんと乗ってるのに

何も無いのも嫌だな、と思って

そっと、彼へ視線を向ければ

何だか

俯き気味にしている

『…ザカオくん?』

どこか具合が悪いのかと、声を掛ければ

びくっ、と彼の肩が震えた

『大丈夫…?』

「わ、あ、止めて!」

心配で、彼の隣へ移動した私に対し

彼はいつもより声を荒げて制止した

隣から見える、その表情は
少し、引きつってるようで

それを見た瞬間

乗る前に感じた、一瞬の違和感と

今の状況が繋がった

それと同時に

気付いてあげられなかった自分に嫌気が差した

『ザカオくん、ごめん…私…』

それでも

いくらかでも
怖さが無くなればいいと

自分の膝を掴んでいる

彼の手に、私の手を重ねれば

「ち、違う、から…!

Aさんは悪くない…!」

顔を上げた彼が、首を横に振って
眉を下げて私を見つめるから

更に申し訳なさが増してきて

『でも高いとこ、苦手、なんだよね…?』

本音を確かめれば、彼は、うん、と頷いた

せっかくの初デートだったのに

こういうのに直ぐ気付けないから

恋愛に関して駄目なんだろうな、私は

何だか情けなくて、彼の視線が痛くて

思わず俯いてしまった

「…でもっ」

『…え?』

そんな私に対して彼は

重ねていた私の手を取り

指を絡めて、繋ぎ直して

「怖いのより…

Aさんとは、これに乗りたかった」

『でも…無理して…』

「…無理しても

喜ぶ顔、見たかったんだ

…Aさんの笑顔、好きだから」

そう言って

ちょっと力無く笑って見せる

彼のその表情に

胸の奥から、愛おしさがこみ上げて

『ありがと…ザカオくん…』

お礼を言うだけで、精一杯

大きくなる鼓動を隠すように

窓の外へと視線を動かせば

私の肩に頭を乗せて、もたれ掛かって

「でもやっぱ怖いから

…終わるまで、こうしてていい…?」

彼が甘えてきたから

恋愛下手な自分を、許してもいいかな、なんて

初めて思えた、特別な金曜の夜

end