浅瀬を泳ぐ魚達 (ページ42)

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19.どんな俺も【マサイ×美容師】ページ42

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なんで俺の髪は
こんなに伸びるのが早いんだろう

オマケに固いし癖っ毛だし

産まれてからの付き合いだから
扱いには慣れてるけど

「でも俺はもう自分で髪は切らない」

誰も聞いてないであろう決意を言えば

『え、結構人気だったじゃん』

俺の首にタオルを巻きながら
鏡越しに笑いかける美容師さん

「まぁ、思ってたよりは反応あったかな」

『まさしく夏男って感じ

あれはあれで似合ってたよ』

「…おう、ありがとう」

自分で初めてやって
プロの人に似合ってる、って言われると嬉しくて

思わず緩みそうになる頬を抑える為に
俺は唇を噛んだ

『んで?今回はどうする?』

俺を完全装備にして
腕を組み、今日のオーダーを待っている

「とりあえず厚くなってるから漉いて

いつもより気持ち短めに切ってほしいかな」

『了解』

俺の注文を聞いて直ぐに

腰に付けたシザーケースからハサミを取り出し
手際よくカットしていく

『しっかしあっという間に伸びるね、マサイの髪は』

後ろの方を切りながら、ちらりと俺を見る

「俺も何でか知りたいくらい」

『もしかして女性ホルモン多いんじゃない?』

「え、嘘、俺まさか女性…」

『そうじゃなくてさぁ』

変なボケをかましても、必ず笑ってくれる

無理しなくても良くて
そのままの俺で居られるのが心地良い

だからカットする時、いつもお願いしてる

「でも最近中々来れてなかったから
なんか余計に伸びた気がする」

『忙しいもんね

部屋行っても良ければ、出張美容師するよ』

遠慮しないで、なんて笑顔で言うけど

ひとりでお店やってて
お客さん抱えてる人には正直言いにくい

「それは申し訳なさすぎるわ」

だから無理しないで、って言ったら

『マサイに会えるなら、喜んで行くのに』

って、顔色を変えないまま
カットしながら、さらっと言うから

俺の方が顔が熱く、赤くなってくる

「っ、そういうの、ずりぃ…」

『え?マサイは会いたくない?』

そんな俺をからかってるのか何なのか

また鏡越しに笑顔で言うから

「…会いてぇけどさ」

『じゃあ決まり〜』

ほんと、この美容師さん

もとい、俺の彼女には敵わない

忙しいだろうからって、気遣って

会いたい、って言いたいのを我慢してたのが

なんか馬鹿みたいだ

Aみたいに
素直に伝えても良かったんだよな

なんて、俺がちょっと悔しい気分になってる内に
カットが終わったみたい

『よーし、じゃあシャンプーしよっか』

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