浅瀬を泳ぐ魚達 (ページ41)

今日:16 hit、昨日:1 hit、合計:26,759 hit

18-2 ページ41

`

電話口で取ったメモを覗き込まれ

顔が近付いて

聞こえてるんじゃないか、ってくらい
胸が煩く高鳴る

「結構前だな、懐かしい」

でも彼はそれに気付いていないようで
普段と変わらない様子でメモを見た

私の走り書きの字で、内容が分かったのか
棚の上段のほうを指差して

「ここら辺だな、その年度だと」

『あ、ありがと』

「ん」

直ぐに見つけてくれたから、お礼を言えば
素っ気ない反応をされて

彼の視線はまた資料へ戻された

本当はもう少し話していたいけど

態々お客さんの為に会社に来た
彼の邪魔もしたくない

だから私も早く資料を見付けようと
背表紙を見て、該当しそうな物を探し始めた

彼と初めて一緒にやった案件だから
私の中では印象が強い

だから見当も付けやすくて
それらしきファイルを見つけたけど

ちょっと私では届くかどうかの段

でも背伸びすればいけるかも…!
と、手を何とか上に伸ばしたら

「いるんだから頼れよ」

私の直ぐ隣に立ち、ひょいっ、と
いとも簡単に取ってくれた

触れそうで、触れないその距離に
緊張したのもつかの間

「ほら」

ファイルが手元に差し出されたから

私はそれを受け取る

『…ありがと、ダーマ』

「ん

…早く仕事戻れ」

どきどきしてる私に対し

彼は手で、しっしっ、と払うようにしたから

少し、ショックで

『…何それ』

思わず刺々しく反応してしまった

「…気が散るんだよ」

『だからって何も…!』

そうしなくたって、と言いかけたけど

久しぶりに会えたのに苛立って
ひとり虚しい気持ちになって

『…もう、戻る』

勝手に不貞腐れて
資料室から出ようと、背を向ければ

「好きなやついたら、気ぃ散るだろ」

『…え』

何を言ってるか分かるけど
処理出来ない言葉が聞こえてきたから

確かめようと、振り返れば

私の手を、持っている資料ごと掴んで

思いっきり引き寄せられた

「Aが好き

…この案件、一緒にやった時からずっと」

真っ直ぐ見つめられて

かぁっ、と一気に顔が熱くなる感覚

「だから、早く戻れ

…俺が、何かしない内に」

そして更に意味深なことを言うから

思考も、体の動きも、停止してしまった

『ダーマ、』

「何だよ」

『私、も、好き』

だから今出せるのは、素直な気持ちだけで

何とかそれを伝えれば

「…余計に何かしたくなるだろ」

なんて

少し顔を赤くした彼に

結局何かされたのは、言うまでもない

end