浅瀬を泳ぐ魚達 (ページ39)

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「…お花とか、あげに行った?」

『今年は…時代が時代だからね

でも、ネットで出来るの、あるでしょ?
あれで今年はあげたんだ…』

Aはやっと零れた涙を
指先で拭いながら、話し続ける

『そこにはね…2年経った今も
あの子への愛で溢れてた

…沢山の人達の中で、あの子は
今もまだ、生き続けてる』

声は震えている

でもその中に感じるのは、芯のある、強い想い

『3人でやってた、今年の抱負の動画とか

そらくんの素直な歌とか

…居なくなった痛みを抱えながら
少しずつ、皆は前に進んでる…

皆の心の中でまだ、彼は生きてる

…だからね
私も、強くならなくっちゃ、って思ってさ

あの子にいつか会えたら
その時は笑顔でいられるように、って…』

Aの彼を思う気持ちが凄く伝わってきて

その想いに、俺も思わず涙が溢れる

「Aだって…強くなってんじゃん

前はそんな風に話せなかったでしょ?」

『…うん、そうだね

でもあの時どん底に居た私を
2人がずっと励ましてくれたからだよ

…だから、本当にありがとう』

画面越しに頭を下げるAに
止めて止めて!と言って

数十秒してからやっと顔を上げたAは

涙で濡れてはいたけど
さっきよりも、明るい笑顔だ

「Aちゃんっ…」

『聞いてたの?私の話』

「画面に映ってないだけで
ずっと子ダホと聞いてたよ」

奥さんも子ダホをあやしながら
側で聞いてたんだけど

もらい泣きしちゃったみたい

『赤ちゃんの前で泣いたら、赤ちゃんも
また泣いちゃうよ!』

「うん、ありがと…でも大丈夫

この子誰かさんに似て、寝たらぐっすりだから」

涙を拭いて、立ち上がった奥さんは
俺の隣にまた座って

すやすやと寝ている、無垢な寝顔を映した

『可愛い〜っ…』

「でしょ?」

「誰かさんに似てな」

『起きないとこだけね』

「ちょ、A、ひと言余計」

俺の文句に、いたずらっぽく笑うA

泣き顔よりも、やっぱりその顔の方が良いよね

ねぇ、空から見てる?

今もまだ、失って悲しんでる人は沢山いるけど

それでも君を想って、皆生きているよ

動画に残ってる、君の姿を見て

涙する事もあるけど

そうやって、思い出を抱えながら
辛さと向き合って

また前を向いて、笑って生きていくんだ

だからどうか

この先の俺等を、ずっと見守ってよ

ねぇ、エイジ

end

2021.1.1

2年経っても忘れない

消える事の無い、赤い光は

ずっと皆の心の中で

ずっと輝き続けてるから

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