浅瀬を泳ぐ魚達 (ページ37)

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「…ただいま」

「…おかえり」

ンダホに少し寄り道をしてもらってから
家まで送ってもらって

入るなり、定型の挨拶をすれば、返答はあった

でもキッチンに立つAは、俺とは目も合わさず
夜ご飯の準備をしてくれている

話し掛けるのが躊躇われる程に
不機嫌なのが雰囲気から伝わってくるけど

ずっとこのままいるなんて嫌だから

「Aごめん!
俺最近、甘え過ぎてた!」

思い切って、深く頭を下げる

だけどAは何も言ってくれないまま

俺等の間には、沈黙が流れて

やっぱり怒ってるよね、って思いながら
顔を上げれば

『…私も、ごめんね』

気まずそうに眉を下げてる
Aの姿が目に入った

『気になるなら、最初から言えば良かったのに…
私が気にしなければいいや、って思って…

勝手に溜め込んで、勝手に怒鳴ったりして…
ホントに、ごめん…』

3年、君といて分かった事なんて
ほんの少しだったんだ

それなのに全部分かった気になって
根拠の無い、大丈夫を振りかざしては

君を傷付けてばかりだった

「…俺はAが何も言わないのをいいことに
好き勝手してた

本当に、ごめん…」

この口が、声が、どんなに音を紡げても

君と俺を、繋いでおけないなら意味は無い

「これからは言うよ

嫌な事も良い事も、全部」

苛立つのは、喧嘩になるのは

喧嘩になっても、笑顔を見たいと思うのは

大好きなAと、理解し合って
ずっと一緒にいたいから

『…私もちゃんと、言葉にするね』

ちょっとぎこちなく微笑む君でさえ、愛しく思う
Aへの気持ちは、ずっと変わらないけど

Aからの、俺への気持ちも
変わってほしくないから

君の為に、考えとか、変わらないといけないよね

「…ねぇA

これお詫び、って訳じゃないんだけど…」

料理をするAの隣に行って
ンダホに寄り道してもらって買ってきた
ケーキが入った箱を差し出す

それを見るなり
何時もの、俺が好きな笑顔になるA

『これって…』

「前にこのお店紹介してる動画見て
いいなぁ、って言ってたでしょ?

本当はAと行きたかっ…」

俺の言葉を遮って、ぎゅっと抱き着いて

『ぺけたんの
そういうの覚えててくれてるとこ、大好き』

そう言ってくれるAを、俺も抱き締めた

「…ありがとA
俺も大好き」

何度喧嘩したっていい

こうして分かり合って
お互いに少しずつ、変わっていけるなら

変わらずに、ずっと一緒にいられるよね

end