浅瀬を泳ぐ魚達 (ページ31)

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撮影部屋に入るなり
ザカオくんはバッグを下ろして、開け始めた

何をするのかと思って見ていると

「ちょっと大きいと思うけど

これがTシャツで、これスウェット

上に着るパーカーと…あー、靴下は駄目…」

「お、さすがうちのドラちゃん」

「ただの心配性だよ」

ザカオくんのバッグからは次から次へと物が出てきて
コンパクトなのに驚く程の量が入っている

その後ろからマサイがタオルを持ってきてくれて
バッグの中を興味深そうに覗き込んでいた

「まぁ、取り敢えず着てて?」

凄く可愛らしい、って言ったら失礼かもしんないけど
素敵な笑顔で私に差し出してくれたから

『ありがと、でも…いいの?』

「そんな気にしないでいいから」

「乾燥機も適当に使って

あと、パソコン見とくわ」

私が着替えを受け取ると
二人は颯爽と出ていってしまった

本当は最近不調なパソコンを見てもらいに来ただけで
まさかこんな事になるとは思う訳もなく

でも、ついてないと思ってた今日の心に染みた
二人の優しさに甘える事にした

濡れた服を乾燥機に入れて
温かいシャワーを浴びて

ちょっと、と言うか
結構大きいザカオくんの服に着替えた

流れに任せて借りてしまったけど
今更よかったのかと考えてしまって

自分の服貸すって友達か
本当は彼女とかなんじゃないかな

やっぱりマサイから借りる方がまだいい気がする
って思って、脱衣所から出ると

「あ、やっぱ大きかったよね」

『わっ…あ、の…大丈夫!』

目の前にはチクワと遊んでるザカオくんがいて
思わず驚いてしまった

それと同時に、返そうかと思っていた気持ちも
引っ込んでしまって

しかも

「でもAちゃんが
メンズサイズ着てるの、なんか可愛い」

『っ、え?』

「嫌じゃないなら、それ着てて?

その格好のAちゃん、好き」

なんて、笑顔でさらりと言うから
頬が一気にカッ、と熱くなって

着替えは返すに返せなくなってしまったけど
その代わりに

『す、好き、って簡単に言わないでよ』

って、まるで中学生みたいな
反応をして見せたら

「え、あ、ごめん!凄い無意識で…!」

だなんて言うから

『…ザカオくん、天然タラシかも』

「え?違うよ!ちゃんと本心だし」

『嘘じゃないとかもっと罪』

「何で?!」

「A、直ったぞ」

『ザカオくんも直して』

「壊れてない!」

ついてない日だと思ったけど

ザカオくんに可愛いって言われて
ちょっと気持ちが晴れた、雨降りの昼間

end