浅瀬を泳ぐ魚達 (ページ22)

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「ちょっと、お兄さん」

男の人にしては少し高めの
でも怒りを含んだ声がして、振り返って見ると

私のお尻に触れたままの手を

左にいた、怪しいと思っていた人が掴んでいた

「何してんの、これ」

「あ、いや…!」

騒然となる車内
私と、黒いニット帽の人と、お兄さん以外の人が
その場を離れて

気付けば綺麗に円が出来ていた

そして間もなく、次の駅に着いて

ドアが開いた瞬間、お兄さんが逃げようとしたけど

「逃げんな」

「ひっ…!」

意外と力が強いみたいで、腕を掴んで離さない

そしてその人を引っ張ったまま

「お姉さん、ごめん
俺等と一緒に来てくれる?」

『っ、は、はい』

事態に気付いた他の人達は私達を避けて
不思議と通り道が出来ていって

黒いニット帽の人を先頭に
お兄さんは引っ張られるようにされて

私は頭の中の処理が追い付かないままに
その後を追い掛けた

ーーーーー
ーーー
ー

「すみません、お話ありがとうございました」

『いいえ、こちらこそ、ありがとうございました』

電車から降りて、駅員の人に話して直ぐ
駅の近くの交番の警察官が駆け付けてくれた

その後交番に移動して話を聞かれ

黒いニット帽の人の証言も有り
私に痴漢をはたらいたお兄さんは正直に事実と認めた為
あまり大事にならずに終わった

私は警察官の方に頭を下げて
お兄さんを残し、黒いニット帽の人と交番を出た

『あの、ありがとうございました』

「いいえ、とんでもない」

私がその人にも同じように頭を下げると
頭を下げ返されて

顔を上げると、マスクを直そうとしたのか
一瞬だけちょっとずらして

やっと顔がはっきりと分かったんだけど

『え…ぺけた』

「しーっ」

彼は人差し指を口にあてて
私に名前を言わせないようにし

直ぐにマスクを元に戻した

「…帰り、気を付けてくださいね」

私に手を振り、背を向けて
彼は颯爽とその場を立ち去っていった

この短時間で起きた出来事をやっと処理出来たと思ったら

1番最後に1番衝撃的な事が起きて
頭の中はまた混乱へと元通りし

ぼーっとするまま、私は帰路に就いた

平凡だった毎日に起きた
ちょっとした事件

それから数日後に

「…あ、この間のお姉さん」

『ぺけたん、さん?』

出勤前の駅のホームでまた会って

「あれから大丈夫ですか?」

『はい、お陰さまで』

「良かった」

そう言って微笑む彼が
私の毎日に、変化をもたらす事になったのは
また別のお話で

end