9.君とのきっかけ【会社員×ぺけたん】 ページ21
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残業は無く、定時で帰れる午後6時
それは良いことなんだけど、私だけがそうなのではなく
世間には同じように帰れる人がいるわけで
帰宅ラッシュの電車内はおそらく
乗車率100%を優に越えている
運悪く座席に座れなかった私は乗降口の近くで
ガラス越しに過ぎ去っていく、街の景色を眺めていた
良くも悪くも、平凡に過ぎ去っていく毎日
変わったことと言えば、いつも見ている景色の中で
大手の商社の、建設中のビルが
少しずつ高くなっていっていることと
雪がちらほらと降ってくるようになったくらい
いつもの癖で、鞄からスマホを取り出してLINEを開く
1番上にピン留めされたメッセージは
半年前の日付のまま
長く付き合った彼に
ただ過ぎる日々に飽き飽きしたと一方的に言われ
別れる事になった
私の中ではその日々の中でも
幸せだと感じる瞬間があったから
それで良いと思っていたけど
彼にとっては違ったようで
でも惰性で付き合われるよりいいかと
彼の言葉に反論はしなかった
過去のメッセージを何となく見返している内に
いつの間にか電車は次の駅に辿り着いて
沢山の降りる人と同じくらい、また人が乗ってきたから
私は自分の鞄を抱きかかえ
自然と乗降口の反対側の方へ移動した
「…ほら、もっとこっち寄って」
「あ、ありがと」
視界に映る高校生のカップルが狭い空間の中
気遣い合っている姿に、初々しくていいなぁ、なんて
自分にもあんな頃があったな、と思い返していたら
『…?』
お尻の辺りを何かが掠めた
電車内は混んでいるし
ただ単に、鞄とか当たっただけかな
と思っていたけど
直ぐにまた、違和感を感じて
今度は掠めた、なんてものではなく
明らかに撫でる手つきを感じた
何をされているか予想が付いて
血の気がさーっと引いていく
危険を感じるけど、体は強張ってしまっていた
それでも何とかしないと、と思って
恐る恐る、顔だけ動かして左右を確認してみる
右の人はサラリーマン、かな
背は高くて、スーツを着ていて
私と同じように鞄を前に持っている
片手にはその鞄、反対の手は電車上部の
荷物置き場を掴んでいる
左の人も同じように背が高く、細身で
服は白のパーカーを着ている
黒いニット帽を被って、マスクをして
手はパーカーのポケットに両方共入っていた
どっちが怪しいかと言えば
左の人だけど
確証が無いから何も言えないし、出来ないまま
また手が伸ばされて、撫でられた感触がしたら
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作者名：奈々 | 作成日時：2020年9月28日 1時
