浅瀬を泳ぐ魚達 (ページ19)

今日:3 hit、昨日:17 hit、合計:26,763 hit

8.眠りに落ちるまで【彼女×シルク】ページ19

`

コーヒーで目が冴えるなんていうのは
滅多に飲まないひとに効く方法だと思う

最初は無理だった苦味も
いつしかそればかり選ぶようになった

だから別に、一緒に起きていたいからとか
意図的にこれを飲んでいる訳ではない

現に私は今まさに眠りに落ちようとしている

「Aー」

『…んー?』

「布団でねーろ」

『うーん』

もう日付が変わったというのに
パソコンに向かい続けるシルク

画面から目を離さずに
椅子に座って眠りこけている私に声を掛けてくれた

『シルクまだかかる…?』

「おん、もうちょい」

いつも皆とおちゃらけている姿と違って
編集中は凄く真剣なその横顔が好き

ぼんやりする頭でコーヒーをひと口飲んで
それをじっと見つめていたら

「…見過ぎ

早く歯磨いて寝なさい」

イヤホンを取って立ち上がり
私の目の前まで来て、頭をくしゃくしゃと撫でた

『んー、そうする…』

椅子に座ったままだったから
ちょっと固まった体を、背伸びして解していると

ふと、唇に柔らかい感触がした

「…おやすみ、A」

『…うん、おやすみ、シルク』

優しく微笑んで、シルクはまたパソコンの所へ戻っていく

ちょっと寂しいけど
邪魔もしたくないから

私はそのまま洗面所へと向かって

歯を磨いた後、寝間着に着替えて
ひんやりした布団にひとり潜り込む

暗い部屋のカーテンから差し込む
ひと筋の月の明かりが、何となく寂しさを増して

顔を半分まで布団で隠した

一緒に起きてたらいいんだろうけど
シルクと私の生活リズムは一致してない

彼が眠りに落ちる時に、私は仕事してたり

私が眠りに落ちる時に、彼は撮影してることもある

私が眠くても
睡眠の浅い彼は眠くない時もある

だから合わせようとすれば辛くなるから
無理に合わせないのが私達

でも
一緒に眠りたい、って思わない訳ではない

シルクのことが好きだから
くっついていたい、って

そうやって本心を言えたらどんなにいいだろう

辛くないようにするつもりが逆効果な今日の夜

だけど行動を起こせない私は
布団から出ようとしないまま

瞼を伏せて、そのまま眠ってしまおうとしたら

ガチャ、とドアの開く音がした

足音はとても静かで
きっと私がもう寝てしまってるんだと思っているんだろう

何か物を取りに来ただけかもしれないし
気を遣ってくれてるシルクに悪いから

私は黙ってそのままでいたら

足音は近くまで来て、ぴたりと収まって

私の背中側が一瞬、ひんやりした

·