浅瀬を泳ぐ魚達 (ページ13)

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『日が沈むまであっという間だね』

「あぁ…9月も終わりだし
短くなってきたな」

ついこの前までは
夜の7時でも明るかったのに

今は6時でもう、
夕陽は少しずつ水平線の向こうへ
消えていこうとしている

俺等はその光景を砂浜から、
少し離れて並んで眺めていた

優しく風が吹いて
Aの髪がさらさらとなびく

その姿を、また俺は綺麗だと思って
何度かシャッターを切った

海を見つめる視線は動かないまま

『…ねぇ、マサイ』

俺の名前を呼んだから

カメラを下ろして、Aを見つめた

あぁ、分かるよ
君が言わんとすることは

だっていつも同じ事を口にする

悲しげで、儚い、綺麗な瞳で

『…もう、私は大丈夫だよ

だから、いいんだよ、マサイ』

そう言って
俺に視線を向けて、微笑む

「…やだよ

俺が、大丈夫じゃねぇんだもん」

『もう5年も経つのに』

「…何年経っても、変わんねぇよ」

月日はいつも変わらず過ぎ去っていく中で

あの日Aを失ってから

俺の心は
この砂浜にずっと置き去りにされたままなんだ

『…マサイが来るから

私もここから離れられないよ』

「…俺のせいで行けないってか?」

悪態をつく俺に、Aは涙を流して

『そうだよ、マサイのせい

毎年必ず此処に来てくれるって
信じて待っちゃうの

…だってずっと私は

マサイのこと、大好きだから』

「…Aっ…」

Aを抱き締めようとした手は
見えているはずの体をすり抜けて

虚しく空を切った

『っ、…ごめんね、マサイ…』

「…謝んなよ」

頭では理解してる

Aがもうこの世にいないこと

でも心がそれを拒否しているんだ

だって、俺も

「A、大好きだ…！

ずっと、ずっと…！」

此処に来れば
君に会えると信じているから

しゃがみ込んで泣く俺の頭を
Aが撫でる

何故か温かさを感じて、
俯いてた顔を上げた

その瞬間、Aからのキス

実態は無いのに、確かに触れた感覚がして

「っ…なん、で…」

『…ねぇ、マサイ』

Aは立ち上がって
涙で濡らした顔で、笑顔を作って

『笑って？

私、マサイの笑顔が大好きだから…』

少しずつ
消えていく、Aの体

「A…また、来るから…」

『…またね』

手を振りながら、後ろを向いて

夜の海へと
君は消えてしまった

次の日、写真を現像したけど
そこには夕陽に煌めく海が写っているだけ

だから来年も写しに行くんだ

俺の目に、君を

end