【短編】書きたいことを書くだけ (ページ7)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:2,808 hit

雨の王国、2 ページ7

その日は珍しく晴れた日の夜で、綺麗な空に丸い月が浮かんでいた。

どこからかコンコンとノックする音が聞こえた。

音のした扉を開けるとそこに立っていたのは小さなお婆さんだった。

「どちら様かしら？」

「こんばんは、お嬢様。お噂が私の耳に入りましてね。どうです？この部屋から出てみませんか？」

お婆さんの言葉に目を丸くする。

「えぇ･･･！ぜひ！わたくし、この日をずっと待ちこがれていましたの！」

「では、決まりですね。どうぞ、私の後ろにお乗りください」

そう言ってどこからともなくお婆さんの右手に握られた箒に跨がる。

「お婆さんは魔女でしたのね」

「ええ、まあ」

「ふふふ、わたくしを連れ出してくださるなんて優しい魔女様だこと」

「さぁ、飛びますよ」

途端に体がふわりと浮き上がり、あっという間に私の部屋が小さくなる。

それと同じタイミングだった。

明るかった空が一気に暗くなり、大雨が降り出したのは。

「え･･･？」

大雨は畑を沈め、家々を沈める。

「どういうこと･･･！？」

「気付いていなかったのかい？ずっと言われていたじゃないか」

ふと、ばあやの言葉が頭の中で反響した。

『お嬢様が特別な方だからですよ』

ばあやはずっと本当の事を言っていた。

「じゃあまさか･･･私を部屋から出さなかったのはこうなることを防ぐため･･･？」

「残念ですね、今更気付くだなんて」

こうなってしまった以上、生きている資格なんて無い。

「最後に夢を見させてくださりありがとうございました。でもやっぱり」

　夢は夢のままの方が美しかったわ

箒から飛び降りて水の中に飛び込む。

最後に見えた光景は、どこかの夢で見た煌々と光る赤い惑星だった。