City holic【Juri.T】

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あれからずっと私の肩で眠っていたなっちゃんの元にようやく渡辺先輩が戻ってきた。

俺の鍵知らね？
なくしたなら俺ん家来いよ
は、お前にお持ち帰りされても嬉しくねーよ

ザワザワとさっきとは違う騒がしさ。
飲み代はサークル代から引き落としまーすって幹事の声。


どうやらお開きになるらしい。

なっちゃんを起こさないよう、ずっと同じ姿勢でいたからか、身体がぴりぴりと痛む。


「Aちゃんごめんね、任せちゃってて」

「いえ、全然。……でもなっちゃん泣かせたら許しませんよ？」

「こわ。……気を付けます」


けらっと軽く笑って、また真面目な顔になる。
……なっちゃん、渡辺先輩が彼氏で正解だよ。めちゃくちゃいい人じゃん。

ひょいっとなっちゃんをおんぶした先輩は、お先に！って店を後にした。
向けられるのは羨望の眼差し……？


だだっ広い部屋に残されてしまった私もそそくさと荷物をまとめる。
どうせ私が来たことに気づいてるのは高地先輩ぐらいだから、帰っちゃっても問題ないだろう。


「失礼します」


一応、出るときに呟いた。
襖の近くに胡座をかいていた後輩に聞こえる程度の声量で。

ガラガラとたてつけのよくない戸を開ければ、生暖かい風が頬を撫でる。

冬の同じ時間帯よりも空が明るい。
夏は、夜が遠く感じる。



「A」



……たぶん私は、この声を聞くために参加したんだ。
振り返れば細身の男。

胸元のゴールドのアクセサリーがきらりと光った。


「久しぶり」


案外、声を出すのは簡単で。
うじうじと考えていた自分がアホらしかった。

久しぶり、と返しながら樹は私の隣に並ぶ。
意外と身長高いよね。


「……痩せた？」

「どうだろ。樹、も痩せた？」

「春から3キロ落ちた」

「やば。その内 骨だけになるんじゃない？」

「不吉なこと言うのやめれる？これでも食べてんだからさ」

「嫌味ですか？」

「事実だもん」

「うわ」



私が心配していたより遥かにテンポよく進む会話。
なんだ、普通じゃん。
普通に友達に戻れるかもしれない。

元カレとか元カノだとかに固執しすぎてたのかな。
前までの関係に戻るだけたから、と別れ際の樹の言葉通りになれるかもしれない。



「じゃあ、私こっちだから……樹はあっちだよね」

「いや、俺もそっち」

「……引っ越したの」

「まぁ」


苦笑い。片方の口角だけを上げる笑い方が懐かしい。
きゅ、と私の胸は嫌な音をたてた。


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