利害の認識 ページ9
「そんで、物好きすぎる」
「どういう意味」
身を屈めて受け口から緑茶と書かれたペットボトルを取り出した松川が、悠長にキャップを回し、ゴクリと喉を鳴らす。
一年の頃に同じクラスだったとはいえ、松川とまともに話した試しがないから、無駄に緊張してついつい強気な口調になってしまう。
「どう考えたって、アイツのこと好きって物好きすぎる」
それは ‛及川’のことだ。
そう理解すると同時に、胸が轟いた。
花巻も、似たようなことを言っていたことを思い出す。
でもそれは、私だけじゃなく他の女子たちにも言えること。
「アイツの何がいいわけ?顔?」
口角を上げて気味悪く笑う彼に、疎ましい気持ちが起こる。
及川のことを悪く言っているつもりじゃないのはわかる。わかる、けど。頭では理解していてもやっぱり気疎く感じてしまう。
松川といい、岩泉といい。そうまでして私を及川から引き離したいのか。そんなに私は邪魔者か。
「全部」
私の直球な言葉に、松川が鼻で小馬鹿にしたように笑う。
でも目は、笑っていない。
「女子の友達作ろうとか、思わないんだ」
「今更?必要ないよ」
私は及川がいてくれれば、それで十分すぎるくらいだ。
女子の友達なんて必要だと思わないし、ましてやこんな私に今更できるとも思ってはいない。
自分の質問に間を空けることなく切り返した私に、松川は口元に冷ややかな笑いの影を浮かべた。
「やっぱりお前、可哀そうな奴」
そう皮肉めいた一言を残して、ペットボトルを肩に当てながら軽蔑した目で私を一目した松川に、私は何も言い返せなかった。
松川がこの場を立ち去った後、私は、逆捩じを食わすことはできなくても ‛決して可哀そうな奴なんかじゃない’とでもいうようなことは言えただろうと、自分を責め立てた。
これじゃ、自分は惨めで可哀そうな奴だって、松川の言っていることを認めたも同然だ。
私はただ、及川の傍にいたいだけ。そのために、女子の友達が必要だとは思わない。
私にとって彼女たち ‛及川のファン’は障害であって、彼女たちもまた及川の周りをちょろちょろする私を邪魔な存在としか思っていないのだから。
そこに利害の一致は、一ミリたりともない。
松川に私が何も言い返せなかったのは、彼の私に対する冷ややかな軽蔑した目に、怖気づいてしまったからだ。
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いおり - 道徳の教科書に載ればいいのにぃ!!泣くことしか出来ませんが…凄く素敵な作品で本当に号泣しました!!1日で全部読ませて頂きましたがここまで素晴らしい小説は今までで一番だと思います!! (2020年12月9日 15時) (レス) id: 5e524467c0 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 本編は全て夢主目線なのに他の登場人物の感情も伝わってきて、切なくなりました。作者様の描写が繊細だからこそ、読み手にしっかり伝わるのだと思います。番外編でまた深く心情が知れて切なくなりました。特にマッキーがかなりグッときました。すごく素敵な作品でした! (2020年6月22日 9時) (レス) id: 2f4dc25fc0 (このIDを非表示/違反報告)
おかか - めっちゃ面白かったです!一人一人の言動の真意とかしっかり話が作られていて、リアルで凄いです! (2020年6月21日 9時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
ルーテル(プロフ) - 今まで読んだ占ツク作品で1番好きかもしれません…1人1人の心情がリアルでぐちゃぐちゃなのに真っ直ぐな恋心がとても心地いい作品でした!マッキーの切なさが一番心に来ました…いい作品をありがとうございました! (2020年5月31日 22時) (レス) id: 98b39f25a9 (このIDを非表示/違反報告)
モンブラン♪@アップルパイも捨てがたい(プロフ) - 泣いた...岩泉夢主さん好きなのかなぁ?は勘違いか...もうカッコよすぎ...ごちそうさまですっ (2020年1月13日 12時) (レス) id: 538cc2e76e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年10月17日 21時