花巻の心情証明 ページ49
「花巻」
「ん」
後ろの席から控えめに肩を叩かれ振り返ると、Aがなぜかタッパーを俺に差し出していた。
「なんだよ？」
「及川に作るお弁当のレパートリー増やそうと思って。味見、してほしい」
俺に作ってきてくれたわけじゃないのね、と内心舌打ちをして残念に思う。
「毒見？」
「失礼な」
「有難く頂きます」
及川が受け取らなかった弁当を一度だけ食べたことがあった。
卵焼きを一口食べてすぐ‛俺にも作ってきて’と頼むくらいに美味しかった。まぁ即答で断られたけど。
「三食卵焼きと、かぼちゃコロッケ。作ってみた」
開けられた蓋の中から顔を出したのは、綺麗な色合いの卵焼きと揚げ物。
「味見が俺なんかでいいのかよ？」
「花巻がいいの」
「あ、そ」
俺‟で”じゃなくて、俺‟が”ね。
手を合わせて卵焼きを口に運ぶ。
「うま」
素で声が漏れた。
「本当？」
俺の言葉にAが嬉しそうに笑う。
続いてかぼちゃコロッケを口に運ぶも、これもまた感動的に美味しかった。
無言で親指を立てると無邪気に笑って喜ぶAに少しだけ心苦しくなった。
俺のために作ってきてくれていたら、もっと素直に喜べるのに。
互いに好き合っているくせに、友達以上の関係に踏み込まない及川とAが、不思議で、そしてもどかしくて仕方ない。
付き合ったら付き合ったで少しは寂しさは残るけど、それでも俺は嬉しいよ。
お前が幸せなら、俺も報われる。
「花巻に言われたら俄然自信出る」
「なんで？」
「だって、花巻は友達じゃん？信用できる」
――‛友達’
あの時、Aの細い腕を掴んだ時、言わなきゃなんねえって思った。
でも言った後、困り果てるAの顔を見て、後悔した。
ここで俺がもう一押ししてしまえば、友達ですらいられなくなるような気がした。
俺が気持ちを伝えたからと言って、コイツの及川に対する感情が変わるはずがないのに。
ただ、一度玉砕してみれば俺の気持ちが変わるのかなって思った。諦めがつくんじゃないかって、そう思った。
「俺、お前の卵焼き好き」
自分のことに関して鈍感なコイツが、その言葉の意を汲み取ってくれることはないだろう。
「やっぱ花巻に言われたら嬉しい」
でも、こうやって弁当の新作を食べるのが、友達である俺の特権なのだとしたら、お前の友達であり続けることも、悪くないって思う。
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いおり - 道徳の教科書に載ればいいのにぃ!!泣くことしか出来ませんが…凄く素敵な作品で本当に号泣しました!!１日で全部読ませて頂きましたがここまで素晴らしい小説は今までで一番だと思います!! (2020年12月9日 15時) (
レス) id: 5e524467c0 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 本編は全て夢主目線なのに他の登場人物の感情も伝わってきて、切なくなりました。作者様の描写が繊細だからこそ、読み手にしっかり伝わるのだと思います。番外編でまた深く心情が知れて切なくなりました。特にマッキーがかなりグッときました。すごく素敵な作品でした！ (2020年6月22日 9時) (レス) id: 2f4dc25fc0 (このIDを非表示/違反報告)
おかか - めっちゃ面白かったです！一人一人の言動の真意とかしっかり話が作られていて、リアルで凄いです！ (2020年6月21日 9時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
ルーテル(プロフ) - 今まで読んだ占ツク作品で1番好きかもしれません…1人1人の心情がリアルでぐちゃぐちゃなのに真っ直ぐな恋心がとても心地いい作品でした！マッキーの切なさが一番心に来ました…いい作品をありがとうございました！ (2020年5月31日 22時) (レス) id: 98b39f25a9 (このIDを非表示/違反報告)
モンブラン♪@アップルパイも捨てがたい(プロフ) - 泣いた...岩泉夢主さん好きなのかなぁ？は勘違いか...もうカッコよすぎ...ごちそうさまですっ (2020年1月13日 12時) (レス) id: 538cc2e76e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小鈴
| 作成日時：2019年10月17日 21時
