その心情を証明せよ。【青葉城西】

剛直な男 ページ39

「…危ねえだろうが」




寝起きで体が強張っていたからだろうか。勢いよくベッドを飛び出したのはいいものの、ふらついた足が体を支えきれず、床に倒れこむすんでのところで、反射的に私に手を伸ばした岩泉によって体が支えられた。





「ご、ごめん」
「ったく、病人は大人しく寝てろ」





憎まれ口を叩いては再び椅子に座り直して、やっぱり傷口に直接絆創膏を張ろうとした岩泉の手を掴む。





「私が、やる」
「なんでだよ。子供じゃねえんだし、そんくらいできるわ。お前は寝てろ」

「いいから」





無神経なくらいに、強い私の押しに根負けしたらしい岩泉は、軽く抵抗していた腕の力を抜いて「頼むわ」と素直に私の要求に応じるようだった。


養護教諭不在の静かな保健室で、岩泉の膝の傷を消毒すると苦痛の息遣いが微かに聞こえる。


転んだのかな。運動神経のいい岩泉でもドジやるんだ、とそんなことを考えながら手際よく手当てをしていく。





「お前、及川と何かあったのか」





思いがけない岩泉の話題の振り方に顔を上げると、当の本人は私を見ることなく傷口だけを見ていた。





「手、止めんな」





誰が見ても不自然なくらいに、私と及川の間には小さくではあるが、でも確実に溝が生まれている。


口を噤んだ私に、岩泉は疲れを吐き出すような息を漏らした。





「ま、俺からしたらお前らが仲悪くなることに関しては嬉しいことこの上ねえけど」





意地の悪そうな薄ら笑いを浮かべた岩泉にムッとして、傷口を更に消毒してやると「いっつ」と眉のあたりに嫌な線を刻んだ。これは小さなし返しだ。






「こういう時のアイツ、めんどくせえからな」






ふと零れた岩泉のその言葉は、意地悪だけど優しい。そんな不器用さを感じさせた。


言葉の後に続けた岩泉のとある提案に、私は目を丸くした。


その提案は、慮外以外の何ものでもなかった。


あの岩泉がまさか私に助け舟を出すなんて、といささか呆気にとられたが、私は二つ返事でその提案に乗った。


重石を吊り下げたような腹部の鈍痛は、気づいた頃には消えていた。

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