エスケープ ページ32
「お前。いつも及川のことで悪く言われても泣いてるとこ見ねーし、澄ました顔してるから、心配だった」
「泣いてない！」
「…」
「…」
「…泣いてるふりだし」
「嘘下手か」
強がって声を張り上げて止まらない涙を必死に拭う私の後ろで、松川はただ黙っていた。
松川が私のことを心配…？
いつもあんなに私のことを冷ややかな目で見ていたのに…？
でも松川が来てくれなかったら、私はあのまま…。なんてことは考えたくもない。
私はいつも誰かに助けてもらってばかり。傍迷惑な女。
「あのさ、お前もっと自分大事にしたら」
「松川に関係ない」
背に掛けられた声に、涙声で強がりを吐き捨てると、松川のため息が聞こえた。
「及川のこと大事なのはわかるけど。もっと自分のことも大事にしろよ」
私の優先順位は、言わずもがな及川が一番。それはこれから先、変わることはないだろう。
やっと涙を押し止めた視界は、狭く感じた。
「…松川」
呼んで背を向けていた松川を振り返ろうとすると、私が上がってきた階段から足音が聞こえて、今一番会いたくない人物が顔を出した。
悲しい、表情をしていた。
「A」
名前を呼ばれた瞬間、体が委縮したように固くなった。
「…及川」
私が掠れた声で名前を呼ぶと同時に、背後から腕を引かれ足が後退する。
「なんでもねーから」
後ろから手を引いて自分の背中へと私を隠した松川が、及川の前へと出る。
「なんでもなくないだろ」
及川の低い声が私の心臓を叩く。
これは彼なりの気遣いなのだろう。私の心情を汲んでくれた松川の行動なのだと思う。
こんな顔、見せられない。
「お前に関係ねーの」
「A、泣いてた」
松川の背中越しに、失望と怒りを混ぜたような及川の声が聞こえる。
「泣いてねーから」
私のことを庇う松川が、自分の背後を覗こうとする及川から後ずさるように私を隠す。
「退けてよまっつん」
「いいからＨＲ始まるぞ」
「それはまっつんもAもでしょ」
「俺らは後から行くから」
「A」
及川と松川が言葉の攻防を繰り返す中で、私はどんどんと壁際に追いやられ、松川の背中がほんの数センチという距離のところで、不意に及川が凛とした声で私の名前を呼んだ。
松川の制服の裾を摘まみ、トントンと軽く引っ張ると、気づいた彼は私の前から退いてくれた。
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いおり - 道徳の教科書に載ればいいのにぃ!!泣くことしか出来ませんが…凄く素敵な作品で本当に号泣しました!!１日で全部読ませて頂きましたがここまで素晴らしい小説は今までで一番だと思います!! (2020年12月9日 15時) (
レス) id: 5e524467c0 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 本編は全て夢主目線なのに他の登場人物の感情も伝わってきて、切なくなりました。作者様の描写が繊細だからこそ、読み手にしっかり伝わるのだと思います。番外編でまた深く心情が知れて切なくなりました。特にマッキーがかなりグッときました。すごく素敵な作品でした！ (2020年6月22日 9時) (レス) id: 2f4dc25fc0 (このIDを非表示/違反報告)
おかか - めっちゃ面白かったです！一人一人の言動の真意とかしっかり話が作られていて、リアルで凄いです！ (2020年6月21日 9時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
ルーテル(プロフ) - 今まで読んだ占ツク作品で1番好きかもしれません…1人1人の心情がリアルでぐちゃぐちゃなのに真っ直ぐな恋心がとても心地いい作品でした！マッキーの切なさが一番心に来ました…いい作品をありがとうございました！ (2020年5月31日 22時) (レス) id: 98b39f25a9 (このIDを非表示/違反報告)
モンブラン♪@アップルパイも捨てがたい(プロフ) - 泣いた...岩泉夢主さん好きなのかなぁ？は勘違いか...もうカッコよすぎ...ごちそうさまですっ (2020年1月13日 12時) (レス) id: 538cc2e76e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：小鈴
| 作成日時：2019年10月17日 21時
