イリュージョン ページ36
ここ数日、及川が冷たい。
「及川、今日ね、」
「はんっ!Aは岩ちゃんとでも仲良くしとけば?そういえばまっつんとも仲いいんだっけ?俺より頼っちゃってさ」
「今日お弁当作って、」
「マッキーにでも食べてもらえば!?」
まるで拗ねた子供。最近、私が声を掛けてもずっとこんな調子だ。
彼は普段私の前では気丈に振舞うから、こんな及川、岩泉の前で以外初めて見た。
「なにお前ら。喧嘩でもしたのか?」
「や、わかんない」
移動教室で隣を歩いていた花巻が、不自然な私たちのやり取りに憂わしげな表情を浮かべた。
私、及川の気に障ることしただろうか。
思い当たる節は、何もなかった。
及川の友達でいると決心したあとだって、普通に私の作ったお弁当は食べてくれたわけだし。
こうなったのは、ほんのつい最近のこと。思えば、岩泉と話すことが多くなってからのような。
でもそれは、岩泉に‛及川の一番の友達になるにはどうしたらいいか’を聞くために、私が一方的に付け回してるだけなんだけど。専ら、岩泉には相手にされず嫌な顔をされてすぐに突っ返されるけど。
岩泉は鈍感が故か知らないけど、全くそうは思っていないらしく、逆に私が及川の一番の友達だと言い張って断固として私の言葉は聞き入れようとはせず、揉め合いに発展する始末。
全く羨ましい男だ。
「お弁当、どうしよ」
教科書を胸に抱えて、呆然と立ち尽くし、去っていく及川の背を見ていた。
私、及川に嫌われた…?
ここ数日、異常なまでに私に干渉しようとしない及川に、彼のファンは嬉々としたようで、‛やっと及川くんに見放された‛捨てられた’と、私を嘲笑った。
「いたっ」
花巻が軽く教科書を私の頭に乗せた。
「そんな顔すんなって。どうせすぐ戻るだろ。弁当なら俺が食うし。ま、お前がよければだけど」
「…ありがとう」
花巻の優しさには、本当に沢山助けられてる気がする。
それより、私を大事だと言った及川の行動とは到底思えなかった。
嫌われたかもしれないという懸念は、私の中に深く留まることはなかった。それは、及川が私に絶対的な安心感を与えたからこそ。
そんな行動の矛盾に不審感を覚えたからこそ、深く落ち込むこともなかった。
どうしていいのかわからないのが、本音だった。
花巻のように、軽んじて杞憂であってほしいと思う自分が見え隠れしていたが、実際に及川がすぐに元に戻ることはなかった。
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いおり - 道徳の教科書に載ればいいのにぃ!!泣くことしか出来ませんが…凄く素敵な作品で本当に号泣しました!!1日で全部読ませて頂きましたがここまで素晴らしい小説は今までで一番だと思います!! (2020年12月9日 15時) (レス) id: 5e524467c0 (このIDを非表示/違反報告)
雅 - 本編は全て夢主目線なのに他の登場人物の感情も伝わってきて、切なくなりました。作者様の描写が繊細だからこそ、読み手にしっかり伝わるのだと思います。番外編でまた深く心情が知れて切なくなりました。特にマッキーがかなりグッときました。すごく素敵な作品でした! (2020年6月22日 9時) (レス) id: 2f4dc25fc0 (このIDを非表示/違反報告)
おかか - めっちゃ面白かったです!一人一人の言動の真意とかしっかり話が作られていて、リアルで凄いです! (2020年6月21日 9時) (レス) id: 0ecde9d0b0 (このIDを非表示/違反報告)
ルーテル(プロフ) - 今まで読んだ占ツク作品で1番好きかもしれません…1人1人の心情がリアルでぐちゃぐちゃなのに真っ直ぐな恋心がとても心地いい作品でした!マッキーの切なさが一番心に来ました…いい作品をありがとうございました! (2020年5月31日 22時) (レス) id: 98b39f25a9 (このIDを非表示/違反報告)
モンブラン♪@アップルパイも捨てがたい(プロフ) - 泣いた...岩泉夢主さん好きなのかなぁ?は勘違いか...もうカッコよすぎ...ごちそうさまですっ (2020年1月13日 12時) (レス) id: 538cc2e76e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年10月17日 21時