タイミング ページ5
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「あかーし!」
翌日。
朝練を終え、教室に向かう途中後ろから名前を呼ばれて振り返る。
Aさんが髪を乱して俺のところまで走ってくるなり、膝に手をついて肩で息をする。
「あかッ、あ、しっ、」
「おはようございます。取り合えず呼吸を整えてください」
挨拶をして一言添える俺に、Aさんは呼吸と髪を整えながら「おはよう赤葦」とふわり笑う。
ちょっと手櫛を髪に通しただけで整うその綺麗な黒髪は、艶を帯びている。
「遅刻ギリギリじゃないですか」
「へへ、ジャージ家に忘れて取りに戻った」
手に提げた紙袋を俺に見せる。
どこか抜けているのに、憎めないようなそんな笑みを浮かべる彼女は、俺の先輩の友達。
「あれ?木兎はいないんだ?」
紙袋が無機質な音を立てる。
「今日は朝一で小テストあるらしくて、先に行きましたよ」
「あー、そういえばそうだったな」
Aさんが余裕のある様子で階段に足を掛ける。
「そうだ、赤葦」
階段五段目あたりで、思い立ったようにスカートを揺らして振り返るAさん。
「昨日借りたハンカチ、絵の具落ちなくて」
ごめん、と手のひらを合わせる彼女に、俺は「いいですよ」と階段に足を掛ける。
俺の言葉にAさんは、ほっとしたように胸を撫でおろす。
昨日のやり取りから、はなから返ってくるとは思っていなかった。
あげるつもりで、渡した。
ハンカチの替えなんて、たくさんあるわけだし。
「それでね、新しいハンカチを買って返そうかと思ったんだけど、」
立ち止まったAさんを、俺は追い抜く。
「ハンカチのプレゼントって、 ‘別れ’ の意味があるって言うじゃない?」
意外とそういう迷信的なの、信じるタイプなんだな。
タンタン、とテンポよく階段を上る足音が後ろから聞こえる。
「だから、さ!」
階段を上りきったところでAさんが、俺の前に出てニヤリと口角を上げる。
その不気味な笑みに、悪寒が走った。
「なによ、その顔」
「いえ」
「いや顔逸らしてるけど、今あからさまに嫌そうな顔したよね?ひどいよ赤葦…!」
ほんと、テンションの落とし方が木兎さんとそっくり。
キーンコーン───
「あ、やべ」
「こらー!逃げるな赤葦ー!」
一段飛ばしで階段を駆け上がる。
Aさんの声が、廊下に響き渡った。
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凛々 - 赤葦と夢主の掛け合いが素敵…。甘さが私に合いすぎです!続きが気になって仕方ないです。 (2019年11月8日 20時) (レス) id: df09ac0ca3 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 39話以降のタイトルのセンス良すぎでは…。全話タイトルつけてほしいくらいです。。。 (2019年9月23日 18時) (レス) id: c3e4fd17c8 (このIDを非表示/違反報告)
madoka - コメント失礼します。小鈴さんの作品は「これぞ純愛!」って感じがして、穢れが一切ない感じがたまらなく好きです!今回もいい感じのキュンキュンありがとうございます!番外編と続編も楽しみにしています!これからも頑張ってください! (2019年9月20日 13時) (レス) id: b7f00b86d0 (このIDを非表示/違反報告)
ずー(プロフ) - あまーい!!実は木兎さんが主人公に片思いをしていたこともめっちゃ胸キュンでした!!本当に小鈴さんの作品大好きです!!!!! (2019年9月19日 13時) (レス) id: 1ffe4440e9 (このIDを非表示/違反報告)
すいか(プロフ) - めっちゃキュンってくるのと、赤葦のかっこよさが、いつもより増してまじでよかったです!他の作品も読んでみようと思います (2019年9月18日 20時) (レス) id: 2af2bdbcf5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年9月7日 19時