急変 ページ25
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数日後。
段ボールを抱えて自分のクラスに向かっていると、木兎さんが慌ただしく階段を下りてきた。
いつもなら必ず俺に声を掛けてくる木兎さんは、やけに切羽詰まった顔をしていて、俺の存在に目も触れていない様子だった。
そんな木兎さんに、ただ事ではない雰囲気を感じ取った。
「木兎さん」
俺が声を掛けると、手すりに手を掛けつんのめりながら振り返った。
「赤葦、」
「なにか、あったんで、」
「Aが倒れた!」
俺が言いかける言葉に被せて、木兎さんが言い放った。
「…え?」
一瞬、思考が止まった。
聞き返す間を与えることなく、木兎さんは階段を飛ばして走っていった。
俺は、丁度よく通りかかった同じクラスの男子に持っていた段ボールを無理矢理押し付けて、木兎さんの後を追って走った。
入ったのは、演劇部が練習で使っている教室。
「A!」
木兎さんが駆け寄ると、Aさんは演劇部員に身体を支えてもらってやっと起き上がっている状態だった。
俺が駆け寄ると、Aさんが虚ろな目で見て木兎さんと俺の名前を呼んだ。
顔、赤い。
木兎さんがAさんを支える演劇部員と位置を変わり、身体を支えた。
「ごめん、今日男子の集まり悪くて、とりあえず木兎くん呼んだんだよね」
部員のその言葉に木兎さんは頷いて「大丈夫かA!」と彼女の額に手を当てる。
「あちっ!」
こんなんになるまで無理するなよ、と木兎さんが言うと薄っすら目を開けたAさんが「木兎、まだクラスの仕事、残ってる…」と掠れた声で言う。
その言葉に、木兎さんは数秒自分と葛藤した後、「わかった」と声を張り上げた。
「赤葦!」
木兎さんが呼吸の荒いAさんを見ながら俺を呼ぶ。
「俺Aの持ち場やってくるから、赤葦あと頼んでいい?」
俺は返事をして、彼女の背に手を差し込み身体を支えた。
「頼んだからな、赤葦」
木兎さんは俺の肩を叩いて、心配そうに、名残惜しそうにAさんを見下ろして教室を出て行った。
本当は、心配でそばにいたいはずなのに。
Aさんだって、きっと木兎さんにそばにいてもらった方がきっと安心じゃ―――
「赤葦、ごめんね」
そう言って覚束ない足で立ち上がろうとするAさんを支えて廊下に出た。
支えた体は、制服越しでもわかるくらいに熱かった。
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凛々 - 赤葦と夢主の掛け合いが素敵…。甘さが私に合いすぎです!続きが気になって仕方ないです。 (2019年11月8日 20時) (レス) id: df09ac0ca3 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 39話以降のタイトルのセンス良すぎでは…。全話タイトルつけてほしいくらいです。。。 (2019年9月23日 18時) (レス) id: c3e4fd17c8 (このIDを非表示/違反報告)
madoka - コメント失礼します。小鈴さんの作品は「これぞ純愛!」って感じがして、穢れが一切ない感じがたまらなく好きです!今回もいい感じのキュンキュンありがとうございます!番外編と続編も楽しみにしています!これからも頑張ってください! (2019年9月20日 13時) (レス) id: b7f00b86d0 (このIDを非表示/違反報告)
ずー(プロフ) - あまーい!!実は木兎さんが主人公に片思いをしていたこともめっちゃ胸キュンでした!!本当に小鈴さんの作品大好きです!!!!! (2019年9月19日 13時) (レス) id: 1ffe4440e9 (このIDを非表示/違反報告)
すいか(プロフ) - めっちゃキュンってくるのと、赤葦のかっこよさが、いつもより増してまじでよかったです!他の作品も読んでみようと思います (2019年9月18日 20時) (レス) id: 2af2bdbcf5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年9月7日 19時