紫林檎 ページ46
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―――「来年も、一緒に来られたらいいね」
そんな、彼女の言葉を思い出す季節になった。
夏休みはほぼ部活漬けで、Aさんもサークルやバイトが忙しいらしく、あまり会えていない。
ただ、毎年花火大会の日だけは体育館の点検作業が入って部活が完全オフになる。
コーチの計らいだろうか。あえて花火大会の人点検作業の日をぶつけているとしか考えられないほど毎年ピンポイントなのだ。
花火大会当日、人であふれかえる駅前で、去年のこの日を思い出しながら彼女を待っていた。
「赤葦!」
去年と同じように小さい歩幅で小走りで。
浴衣は、去年と違って白に淡い紫色の花柄。
去年とはまた違った良さがあって。華やいで見える。
「ごめん!人が多くて」
今年も、綺麗だ。
「俺も、今来たところなので」
去年と違うのは、俺たちが恋人同士だっていうこと。
ニヤニヤする彼女に、「なんですか」と目を細める。
「今の台詞、デートっぽい」
「デートでしょう」
デートなんてもう何度もしているのに、未だにそんなこと言うのが彼女らしいというか。
「赤葦から誘ってくれると思わなかった」
「去年言ってたじゃないですか。来年も一緒に来られたらいいって」
俺のその言葉に目を丸くして「…覚えててくれたんだ」と呟く。
去年のお祭りのアレを忘れろという方が無理な話だ。
「綺麗、ですね」
そう言って俺が手を出すと、頬を赤く染めた彼女の小さな手が、そっと俺の手に触れる。
そんな小さな手を引いて、夏の夜に紛れた。
***
「わーん、折角新調した浴衣なのにーっ!」
それは、彼女と、その手に持つ林檎飴がよく似合うと思った矢先だった。
人の流れを逆らうように走ってぶつかってきた子供によって、彼女が手に持っていた林檎飴が自身の浴衣にべちゃりとついてしまったのだ。
直後は申し訳なさそうに何度も頭を下げるお母さんと、「ごめんなさい」と謝る男の子に、「大丈夫ですよ」「気を付けるんだよ、ボク」と頭を優しく撫でていた彼女だったが。
二人が人混みに消えたと同時に、彼女はふらふらと俺の手を引いて川沿いの柵の方へと歩いていく。
大丈夫かと問えば、急に泣きそうな表情で俺を見上げては喚きだした。
俺は彼女の手を引いて、屋台裏のおばさんに事の経緯を説明し、水を少し貰えないかと頼んだところ、快く頷いてくれた。
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凛々 - 赤葦と夢主の掛け合いが素敵…。甘さが私に合いすぎです!続きが気になって仕方ないです。 (2019年11月8日 20時) (レス) id: df09ac0ca3 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 39話以降のタイトルのセンス良すぎでは…。全話タイトルつけてほしいくらいです。。。 (2019年9月23日 18時) (レス) id: c3e4fd17c8 (このIDを非表示/違反報告)
madoka - コメント失礼します。小鈴さんの作品は「これぞ純愛!」って感じがして、穢れが一切ない感じがたまらなく好きです!今回もいい感じのキュンキュンありがとうございます!番外編と続編も楽しみにしています!これからも頑張ってください! (2019年9月20日 13時) (レス) id: b7f00b86d0 (このIDを非表示/違反報告)
ずー(プロフ) - あまーい!!実は木兎さんが主人公に片思いをしていたこともめっちゃ胸キュンでした!!本当に小鈴さんの作品大好きです!!!!! (2019年9月19日 13時) (レス) id: 1ffe4440e9 (このIDを非表示/違反報告)
すいか(プロフ) - めっちゃキュンってくるのと、赤葦のかっこよさが、いつもより増してまじでよかったです!他の作品も読んでみようと思います (2019年9月18日 20時) (レス) id: 2af2bdbcf5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:小鈴 | 作成日時:2019年9月7日 19時