ヤキモチ ページ23
.
「おっ、赤葦。どうしたの?」
元気をなくし、ふらふらした木兎さんを押しのけたAさんが廊下に出てきた。
「あの、お願いが、」
「赤葦!」
言いかけた言葉が、Aさんによって遮られる。
握られた右手に、息を呑んだ。
「血…?」
さっき手に赤く塗った落としきれていない絵の具を見て、Aさんが少しの動揺を見せて俺の手を持ち上げた。
「絵の具です」
俺が冷然と答えると、「なんだ、びっくりさせないでよ〜」と俺の手を離した。
「Aさん、お願いがあって」
やっと本題に入る。
Aさんに握られた右手が、やけに熱く感じる。
「なに?」
「演劇部の暗幕、あれば数枚貸してほしくて」
「暗幕?」
事の経緯を説明すると、使っていない暗幕なら、とあっさりOKの返事が返ってきた。
*
「この辺りなんだよな〜」
演劇部の大道具が仕舞ってある教室の、棚の上段に手を掛けるAさん。
「俺、取りますよ」
背伸びをするAさんの後ろから、俺は棚に手を伸ばす。
その辺にあると思うんだけどと言うAさんに、俺はすぐに暗幕を見つけて棚から下ろした。意外と、重い。
「あー、やっぱ使ってない暗幕だからちょっと埃被ってる。大丈夫?」
「借りられるだけありがたいです」
俺が暗幕を抱えると、Aさんがドアを開けてくれた。
「Aさん、相変わらず木兎さんと仲いいですよね」
無意識だった。
さっきの教室で見た光景に、俺は気づいたら口に出していた。
「え、赤葦もしかしてヤキモチ…?」
「いえ」
あくまで平常を貫く俺に、Aさんがニヤニヤ笑う。
「へえ、赤葦がヤキモチか〜かっわいい〜」
「…」
「なにその顔、やめて怖い」
「…」
「そっか〜いつも赤葦の方が木兎ばっかりなのにな〜」
「からかっているんですか」
「赤葦クンが思ったより素直で、嬉しいんです〜」
俺の気持ちを知ってか知らずか、楽しそうな声色で笑う。
俺はこの人と、木兎さんのお陰で知り合えた。
彼女の演技を見なければ、気になることもなかった。
「暗幕、ありがとうございました」
木兎さんがいなければこの人とと出会うことも、好きになることもなかった。
「使ってない暗幕だし、気にしないで」
なんだかんだで感謝している。
────この気持ちを伝えられるのは、いつになるだろう。
.
369人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
凛々 - 赤葦と夢主の掛け合いが素敵…。甘さが私に合いすぎです!続きが気になって仕方ないです。 (2019年11月8日 20時) (レス) id: df09ac0ca3 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 39話以降のタイトルのセンス良すぎでは…。全話タイトルつけてほしいくらいです。。。 (2019年9月23日 18時) (レス) id: c3e4fd17c8 (このIDを非表示/違反報告)
madoka - コメント失礼します。小鈴さんの作品は「これぞ純愛!」って感じがして、穢れが一切ない感じがたまらなく好きです!今回もいい感じのキュンキュンありがとうございます!番外編と続編も楽しみにしています!これからも頑張ってください! (2019年9月20日 13時) (レス) id: b7f00b86d0 (このIDを非表示/違反報告)
ずー(プロフ) - あまーい!!実は木兎さんが主人公に片思いをしていたこともめっちゃ胸キュンでした!!本当に小鈴さんの作品大好きです!!!!! (2019年9月19日 13時) (レス) id: 1ffe4440e9 (このIDを非表示/違反報告)
すいか(プロフ) - めっちゃキュンってくるのと、赤葦のかっこよさが、いつもより増してまじでよかったです!他の作品も読んでみようと思います (2019年9月18日 20時) (レス) id: 2af2bdbcf5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:小鈴 | 作成日時:2019年9月7日 19時