雨とタオル ページ21
.
次の日は、雨が降っていた。
雨のせいで周りの音がかき消されるのに、自分の息遣いだけがやけに大きく聞こえる気がする。
学校に向かう足が、重い。
雨のせいだろうか。
違う。
昇降口で傘を閉じて雨を払う。
下ろしている長い髪が広がる嫌な湿気。
教室に向かう途中でお手洗いに入って、髪を束ねた。
鏡に映った自分の顔を見る。
酷い顔してる。
笑ってみるけど、ぎこちなくて逆に不気味だ。
深く息を吐いてぺちんと頬を叩く。
「よし」
声に出して気合を入れて、私は教室に向かった。
＊
教室に入って、クラスメイトに挨拶をしながら窓際の自分の席に鞄を置く。
隣の席の彼は、まだいない。
私は安堵したように胸を撫でおろして椅子を引いた。
朝練だからいないのはわかっていたけど、やっぱり足取りは重くて少し躊躇していた。
机の中に教科書をしまってスマホで天気予報を見ていた。
今日ずっと雨か。
スマホを机に置いて窓に視線を投げる。
なんとなく、雨が強くなってる気がする。
「おー五色、なんで濡れてんだよ」
その名前に、私の肩は小さく跳ねた。
「予鈴鳴ったから走ってきた、あとタオル忘れて」
ガタッ、隣の席が大きな音を鳴らす。
私は、視線を窓の外に向けたまま。
昨日の今日で、顔、合わせづらい。
「今日は、髪縛ってんだ」
私に向けられた言葉だって、わかった。
恐る恐る、ゆっくり窓とは逆に首を動かすと、五色くんが鞄の中をガサゴソ漁っていた。
綺麗に切り揃えられた前髪が、濡れてる。汗なのか、雨なのか。
「湿気で髪広がるから」
お互いに目は合わせない。
私は机の横に掛けた鞄からタオルを取り出して、五色くんに差し出した。
「タオル、二枚持ってきてるから」
隣から視線を感じる。
「ありがとう」
その言葉と同時に、手からタオルが消えた。
頬杖をついて横目で隣の席を見ると、五色くんは私が差し出した水色のタオルを頭にかぶって俯いていた。
タオルのせいで表情、見えない。
「…」
「…」
「一限目なんだっけー」
「数学じゃなかったっけ」
「待って日付的に今日私当たりそうなんだけど」
「じゃあ斜めの俺も当たるんじゃ…」
そんな会話を耳に、私は机から数学の教科書を取り出す。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 437人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あまね(プロフ) - 3年ぶりも大好きです (2月18日 3時) (
レス) @page42 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
hwanieee - 私が好きな自信満々ででもまだ完璧じゃなくて繊細な五色くんがいて感動しました！ (2月12日 10時) (レス) id: 307954f471 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - 待ってなんでこの神作に早く出会わなかったの？私バカなの？((((喧しいわ (2021年8月14日 20時) (レス) id: 1a6dd63888 (このIDを非表示/違反報告)
和敬 - 出会って1年と経ちますが、今でもこの小説だけは何十と読み直してる位 大好きです。甘酸っぱくて、だけどちょっと、もどかしさもあって 。本当に素敵な作品をありがとうございました！ (2020年11月9日 0時) (レス) id: a0a88ff10f (このIDを非表示/違反報告)
てつこ - 最高の夢をありがとうございます (2020年1月28日 1時) (レス) id: d5585a65a4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小鈴
| 作成日時：2019年8月25日 22時
