【男主】ぎゅっとぎゅっと、【名探偵コナン】

ぎゅっと、10 ページ10

｢A、お前気づいてんだろ｣


聞き込み捜査中、移動の傍ら呟かれた航の言葉に｢なんのこと？｣ととぼけた返事をする。

それに苦い顔をした航が面白くって笑いを零せば、お叱りを受けた。


｢わりぃわりぃ。んで？ 何の話？｣

｢おい、まだとぼけんのかよ｣

｢いや、ホントに分かんねぇって。交通部の橋本さんが俺の事好きだってこと？ それとも人事部の菱沼さんがお前を狙ってる事？｣

｢どれもちが、いや待て最後の初耳だぞ｣


そりゃそうだ。言ってないんだから。それにきっと気づいてるのは俺くらい。菱沼さん隠すの上手いからな。

焦ってる航を横目に見て、ため息をこぼす。



｢わぁってるよ。萩原が俺の事好きだってことだろ｣

｢んだよやっぱり気づいてんじゃねぇか｣

｢当たり前だ。俺が人の好意に敏感なの知ってるだろ｣

｢好意に限らず気持ち全般に強いだろうが｣
｢そうとも言うー｣


からりと笑って茶化せばパシリ、いい音を立てて頭が叩かれる。
手加減されてるのがわかって、思わず笑いが零れた。


｢そんで？ だからなんだって言うんだよ｣

｢お前はホントに薄情な奴だな｣

｢そんなこと言うの航くらいのもんだけどな｣

｢気持ちに気付いてるなら答えてやれ。イエスでもノーでもだ｣


そう言った航は真剣な顔で、茶化せるような空気でもなくなってしまった。

真っ直ぐな瞳をみてらんなくて、目をそらす。


｢やだよ。断ったら空気悪くなるし、おっけーだしたって萩原を幸せにしてやれない｣

｢んなこたねぇだろうが。お前程のいい男、そうそういねぇぞ｣

｢そうかな、俺なんかよりも航の方がいい男だ。俺が女だったら航狙ってるね｣

｢冗談やめろ｣
｢へーへ｣


別に冗談でもなんでも無いんだけどなぁ。
今恋愛感情抱いてるわけじゃないけど、航はいい男だ。女だったら航と結婚したいと思ってる。

付き合うなら諸伏だけど。

並んで歩いているのを、意識して歩調を早めて前に出る。

ざわついた空気を無視するように後ろを振り返って、航を見据えた。

｢結婚するなら航で、付き合うなら諸伏。降谷は友達で、松田は弟に欲しいな。でも好きなのは、｣




とん、何かがぶつかる。
声帯を震わせるはずの音は、空気となって口から吐き出されるだけ。

目を大きく見開いて驚きを全力で表現する、航の顔を初めて見た。


襲ってくる痛みに眉を顰めて、横を見ようとして、でも叶わずに意識が途切れた。


｢A！！｣


航の叫び声を、最後に聞き届けて。

ぎゅっと、11→←ぎゅっと、9

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す