拝啓、顔も知らないあなたへ

三十六通目 ページ37

新しく届いたお手紙には、住所が記載されていた。

……前に進むとは言ったものの。



「こ、これ…確実に壱馬さんの家の住所だよね…」



事務所に送りすぎて迷惑になってたかな…。

それは理解できるけど、でも！

だからと言って住所を書くなんて！

危機感がないよ壱馬さん！

私がもしこの手紙をネットにばらまいたらどうするの！

絶対しないけど！！



「…仕事じゃないってことだよね」



プライベートの関係…。

ダメなはずなのに、ドキドキする…。



【Aさんへ

ストイックって言っても、俺はメンバーに比べたらまだまだな方なんですよね。

ゲームしてるときとかついお菓子が食べたくなっちゃいますし。

無理して一緒にする人を見つける必要もないと思います。

俺もショッピングとか一人で行くことが多いですし、衝動買いもしちゃいがちです。

でも、Aさんの料理を独り占めしてるのはずるいなぁ。

俺の好きな漫画とかCDありますね。

やっぱり三代目さんのCDが多いのは、臣さんの影響ですか？

壱馬より】



手紙の内容を何度も読み返す。

独り占めだなんて

なんか、可愛いっ…。



【次はこちらの住所に送ってください。】



距離が着実に近づいてるのが分かる。



「…あなたは、本当にそれでいいの？壱馬さん」



もしこのまま手紙を送らなかったら…あなたは悲しむかな。

…あの時の電話の言葉、忘れられない。

私の手紙を待っていた彼…それは今でも、変わってない？

…変わってないって信じたい。



【壱馬さんへ

音楽はお兄ちゃんの影響が強いです。

あなたとお電話したときも、お兄ちゃんの家にたまたま泊まりに行った時でした。

私は、今までお兄ちゃん以外の芸能人の方と関わったことがなくて

正直いまもいいのかなって思ってます。

あなたのことを知ると、この関係が崩れてしまいそうで、怖いです。

そう思ってしまう私はずるいですか。】



知りたいのに、知るのが怖い。

でも前に進みたい。

０７０ ✕✕✕…。

最後に電話番号を書いた。

今回は写真も同封しない。

…こんな手紙困るよね。

こんなあからさまな距離の詰め方

面倒だって思われるかな…。

…あなたがもし、私のこの行動に引いたら、それでもいいと思ってる。

あなたから身を引いてくれたら、それで…。

……いいはずなのに。

想像しただけで、胸が張り裂けそうなのは、なんで？



「…手紙出すの、怖いよ…」



結局この日、手紙を出すことはできなかった。

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