拝啓、顔も知らないあなたへ

二十四通目　side川村壱馬 ページ25

川村壱馬様へ。

そう書かれた手紙がファンレターに混ざって届いた。

どのファンレターにも書いてるけど、この字はあの人の字。

登坂A。

この前予期せぬ形で初めて会話した、あの人。

お風呂あがりですっぴんだから顔は見せれないって言ったあの人は、全然カメラに映ってくれなかったけど、話はしてくれた。

いくつだろう、年上かな。

…俺のこと知らないっぽかったな。

綺麗な便箋を開けて、中身を読む。



【川村壱馬様へ

わざわざお手紙ありがとうございます。

プレステ５、活躍しているようで安心しました。

素敵なお気遣いありがとうございます。

お気持ちはありがたいのですが、私は川村様が楽しそうにゲームしているだけで十分ですよ。

私はゲームが下手なので、私の代わりにめいいっぱい遊んでください。

川村様はゲームお好きなんですか？】



女性らしい、きれいな字。

うーん、頑なにお礼はさせてくれなさそう。

…やっぱり、俺が芸能人やから？

…いや、そうやん。

俺も女性関係でいざこざが起きたら面倒って言って、デビューしてから女性関係を断ち切ってきたのに。

…なんでこんなに興味持ってるんやろ。

臣さんの妹やから？



【川村様はゲームお好きなんですか？】



その質問に、つい口元が緩んでしまった。

川村さまなんて他人行儀だってのもある。

…いやでも、多分。

まだ俺と話したいって思ってくれてるから。

そんな問いかけ一つで、少し嬉しくなってしまった。

手紙なんて遠い仲かもしれないけど。

今はこの関係が心地よかった。

お互いの連絡先も顔も、立場も肩書も何も知らない。

この状況が、楽だった。

多分この先に進めば…あの人は遠慮しちゃうだろうし。



……返事、なんて書こう。

…やばいな、電話で話したらもっと知りたくなったとか言ったら、どんな反応するかな。

…顔見て話したい。

あの時、彼女がお風呂入る前に電話してたら…。

顔見せてくれたんかな。

なんて今更そんなこと考えても意味はない。



「…やっぱり俺、手紙とか柄じゃないんやろな」



そう思いつつも、彼女の返事を期待して、筆を取る自分がいたのだった。

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