拝啓、顔も知らないあなたへ

二十二通目 ページ23

「ご、ごごごごめんなさい！私、失礼なことしてしまって…」

壱「…なんだ、よかった…」

「え…？」

壱「気持ち悪がられたらどうしよって思ってた」

「そ、そんな！嬉しかったです…」

壱「そ、そっか」

「「…………」」



き、気まずい！

お兄ちゃん早くお風呂から戻ってきて！

いや、今日は湯船張ってるからいつもより長いかもしれない…。



壱「手紙」

「は、はい」

壱「楽しみにしてます」

「っ…大した内容じゃないですよ…？」

壱「んー、別にいいですよ」

「今直接お返事してもいいくらい…」

壱「ダメダメ、それなら顔見て話してくださいよ」



そう来ましたか…。



「い、今はお風呂上りですっぴんだから、遠慮しておきます…」

壱「ふっ笑 じゃあ手紙で」

「は、はい」

壱「プレステ、めちゃくちゃ活躍してますよ」

「そ、そうですか…良かった」

壱「アレ買うの大変ですよね」

「朝四時から並んで買いました」

壱「ええっ！またどうして…」



…うーん、元カレのことあんまり話したくない。

どう答えようかな…。



壱「…でも、そんな大変なもんあんな安値でよかったんですか？」

「あ、はい。むしろありがたかったです。私ゲームヘタで…あ、でもスイッチはうちにあって…時々お兄ちゃんと勝負するんです」



ぼろ負けするけど。



壱「へぇ、臣さんがゲームとかあんまり想像つかない笑」



…気遣ってくれたのかな。

さりげなく、別の話題にすり替えてくれた。

…いい人。

私のいい人のハードルが低いのは否めないけど…。

この人は、声からも手紙からも

いい人だってのが伝わってくる感じがする。



壱「あの、お名前聞いていいですか」

「あ、そうですね」



忘れてた、私だけ一方的に知ってるのはよくないよね。



「登坂Aって言います」

壱「Aさん、ね。よろしくお願いします」

「…よろしくお願いします」



自分の名前を人に言うとき、どうしていつも緊張しちゃうんだろう。



「川村さんはお兄ちゃんと仲いいんですね」

壱「えっ、そう見えます？そりゃめちゃくちゃ尊敬してますけど」

「はい、お兄ちゃんも川村さんのこと好きだと思います」

壱「…うわ、なんか照れるわ」



顔は見えないけれど、何となく彼が今顔を手で覆っているのかなって想像できた。

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