拝啓、顔も知らないあなたへ

一通目 ページ2

新卒で広告代理店に就職して一年、ようやく仕事に慣れてきた。

メイクもばっちりでキラキラのOLとして…というわけでもなく。

普通の社会人として生きてきた。

今日も営業の挨拶周りをして、相手先の方と名刺交換をする。



「えっ、登坂さんってあの登坂さんですか？」

「…あの、とは？」

「あ、すいません！三代目JSBの登坂広臣さんと何か関係が…」

「いえいえ、ただ同じ苗字なだけなんです」

「えー！そうなんですね！羨ましい〜！私めちゃくちゃファンなんですよ！！」



…ありがとう、登坂広臣。

この苗字のおかげで、取引先との関係はだいたい良好。

大学時代からちょこちょこ聞かれるようにはなっていた。

しかし数年前、とんでもない三代目ブームが訪れると私の身の回りは一変した。

Aってあの登坂広臣と関係あるの！？

そう聞かれることが多くなった。

羨ましいって妬まれることもあったし、ファンらしき子にずるいって泣きながら訴えかけられたこともあった。

彼のおかげで私の身の回りは大変で、いいことも悪いこともたくさんある。



でも私はそれを受け入れる。


…だって、登坂広臣の妹だから。


言えるわけないじゃん！！

妹ですって言った日にはどうなると思ってるの！？

連絡先教えろだとか会わせろだとかめちゃくちゃ言われるに決まってるでしょ！？

入社した時だって同期とか先輩に聞かれまくったし、この会社ファンだってたくさんいるんだから！


高校の友達も大学の友達も知らない、私のトップシークレット。

でも登坂広臣の妹として恥じない生き方を目指して絶賛社会人として頑張っている最中だ。



挨拶回りが終わり、会社に帰ると今度は書類仕事。

パソコンを立ち上げてカタカタデータ入力をしていく。

「お疲れ〜A」

「あ、桃花ちゃん、お疲れ様」

彼女は島崎桃花ちゃん。

私の同期で会社に入って仲良くなった子だ。

「で、外回りどうだったの？」

「好感触！」

「さっすが！もしかして…」

「そう！登坂ファン！」

「やっぱりかー！」

登坂の影響力はすごいもので、おかげで私の営業成績は新人の中でもかなりいいほうだ。

「…登坂のやつ」

「名前だけじゃん」

「なんで臣くんと同じ苗字なわけ？」

「ムカつく」

…まぁ、おかげでヘイトを買うこともあるけどね。

二通目→←＊設定＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す