誰より、なにより。 ページ9
Side Hikaru
いつか、諦めようとした恋だった。
君が誰を見ているのかなんて、痛いほどにわかってたから。
出会ったときからその瞳はあいつのものでどんなに俺が気を引きたくて言葉を紡いでもその目がぶれることなんてなかった。
それでもどうしてもAが欲しくて。
たった一夜だけでもいいからこの手に抱きたくて。
君に秘密を作らせた。
なぁ、あの日のこと本当にお前は忘れられてんの？―――――
――――岩「よ…寝てんのか」
ノックして扉を開くと、扉側を背にしてベッドに横になっている彼女がいた。
足音を消すようにゆっくり歩み寄ってAの前へと回り込む。
「…ん」
一瞬だけ眉間に皺を寄せたかと思うと、またすやすや寝息を立てるA。
その寝顔が無邪気で。
あの日のことがまるで昨日のことのようにフラッシュバックする。
キスしたい衝動を必死に理性で押さえつけてその頬をなでるだけで我慢する。
岩「…なぁ」
声をかけても答えなんて返ってこないってわかってるけど、あふれていく言葉はもう俺にも止められない。
岩「好きなんだ…あの日から何度も何度もあきらめようとした…でも…諦めきれなくて…未練がましいけど…それでもAしか無理なんだよ」
慟哭にも似た独白。
手に入らないってわかってるのに、佐久間とのことが脈なしだと気づいて期待する。
なぁ、教えてくれよ。
どうしたら俺はお前を諦められるんだよ。
こんなにかっこ悪くなった自分を嫌いにはなれないけど…
それでも、お前の目に映る俺は少しでもかっこよくありたい。
「…ひ、くん？」
ゆっくりと瞼が押し上げられ、Aの瞳が俺を映した。
とっさに視線をそらしたのは、泣きそうだったから。
必死に涙を引っ込めてAに視線を戻す。
岩「おはよ。」
「…どしたの」
さっきまでの言葉を伝えたくて来たはずなのに、いざ用事を詰められるとすぐに言葉が出てこない。
言葉に詰まっていると、Aはゆっくりと上体を起こした。
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作者名：Orin | 作成日時：2020年11月9日 0時
