例えばそれが俺じゃなくても、 ページ7
また、一日が始まる。
寝てもなんだかすっきりしないのは、きっと応えられない気持ちを知ってしまったから。
空も、心なしかどんよりして見える。
あー…もう。
どうしたらいいんだ。
そんな風にぐるぐる思考がめぐる中でもおなかは減るし、リハビリの時間もやってくる。
「なーんもやる気がしない。」
そんなことをつぶやきながらベッドから空を見つめているとノックが聞こえてくる。
午後一のリハビリには少し早くない？
と思いつつも返事をするとぴょこっと顔をのぞかせたのは阿部ちゃんだった。
阿「やっほ。調子どう？」
そういいながら入ってきた彼は大きな荷物を抱えてる。
「荷物多くない？」
問いかけに応えるよりもはやくツッコミが口から出ていく。
阿「差し入れ。」
「え。待って、何年入院させておくつもり？」
阿「いや、なんだと思ってるの」
「…さぁ？」
阿「クッションだよ」
そういいながら彼が袋から出したのは確かにクッション。
Aみたいな形のクッション。
阿「この前のキテルネ！で紹介したやつなんだけど、ベッドにいる時間も長いんじゃないかと思って。」
「あー！見た見た。ありがとう。買おうかと思ってたんだよね」
阿部ちゃんに言われて納得する。
そういえば前回のキテルネ！で紹介していたそれだ。
阿「結構いいよ、それ。俺も自分の分買って使ってるんだけど楽だよ」
「ありがたく使わせてもらうね！」
阿部ちゃんからそのクッションを受け取ってそのまま腰のあたりへ装着する。
阿「喜んでもらえてよかったよ。」
「めちゃくちゃうれしいよー！今度なにかお礼するね」
阿「別に気にしなくていいのに」
苦笑した阿部ちゃんは私の隣に座った。
「阿部ちゃん、仕事は？」
阿「今日はこの後グループでの収録があるよ」
「おっ？それスノ？」
阿「おぉ、よくチェックしてくれてるんだ？」
「スノストのはちゃんとチェックしてるよ。」
阿「そっか…」
一瞬、阿部ちゃんが黙って何かを考える。
「？」
阿「あ、いや、えっと」
「…」
阿「なんでもない」
目を泳がせてそういう阿部ちゃん。
「…なんでもなく、なくない？ねぇ、佐久間くんとのこと、聞いた？」
もしかして、そう思いながら問いかけると、ばっと顔を挙げた阿部ちゃんと目が合った。
「ごめんね、何も報告とかしなくて。」
阿「えっ」
「阿部ちゃんにはさっくんのこと、いろいろ聞いてもらってたのに、ごめん」
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作者名：Orin | 作成日時：2020年11月9日 0時
