九話 心の闇 ページ10
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『(結局意味なかったのかな?)』
東宮がみまかられた。
それを知ったのは、夕餉の際黒い帯が配られた時。
喪に服す意味合いで7日間付ける帯だそう。それと同時に、ただでさえ少ない肉類が食事から消えた。
端女の食事は一日二回。雑穀と汁物、時折菜だけ。
『(猫小姐は良いとしてさすがにこれはなあ...)』
痩せ過ぎの猫小姐には丁度良い量だが、年相応の体型をしている私には少々少なく感じた。
下女と一括りにいってもいろんな者がいる。
農民出身の者もいれば、町娘もおり、数は少ないものの官の娘もいた。
親が官であればいくらか待遇は良いはずだが、それでも下働きなのは本人の素養の問題である。
『(さすがに文字の読み書きが出来ない者を部屋付きの妃になんて出来るわけ無いよね)』
妃というのは職業であり、給金も出るらしい。
『(もったいない__その一言につきるな)』
やがて、喪が明けて黒い帯を見かけなくなったころ、玉葉妃の噂を聞いた。
「東宮を失って、公主が帝の頼み綱らしいよー」
「じゃあご生母である梨花さまは?」
「帝が通ってらっしゃる話も無いみたいよ」
『(都合の良いことで)』
私は猫小姐が汁を飲み干すのを見計らって、食器を片付けるよう席を立った。
「A」
『なに?』
仕事場へ戻る途中、不意に猫小姐から肩を掴まれた。
何事かと思い振り返ると、猫小姐は私の額に手を伸ばすとゆっくり前髪をかきあげる。
急に明白になふ視界の向こうには無表情の姉。
きっと、今の自分と同じ顔をしているのだろう。
『...前髪返してよ』
「やっぱ、似てるな」
『双子だからね』
前髪を上げられるのは好きでは無い。不機嫌に眉をひそめれば猫小姐は呆れたように笑った。
同じ日に同じ腹から生まれた姉。
薬への探究心は人一倍な姉に対して、私はいつも劣等感を抱いてばかりだった。
私に出来る事は妓女の真似事をする事。
踊り、歌い、芸を売り___身体を売る。実際薬屋よりそちらの方に才があるのは知っていた。
『(何故、こうも似ないものなのか)』
「ほら、仕事」
『...うん』
いつのまにか元に戻った視界で猫小姐から雑巾を受け取ると、黙々と窓を磨き始めた。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 完結になっていますが、これで終わりなのでしょうか? (12月14日 1時) (レス) @page34 id: de2c41cb59 (このIDを非表示/違反報告)
の〜さん(旧もこ)(プロフ) - オチは出来たら愛されエンドか全員のオチが見たいです!更新楽しみにしてます!頑張ってください! (10月24日 17時) (レス) id: 79dfdf41ef (このIDを非表示/違反報告)
カケオレ - 続き待ってます!更新頑張ってください! (2022年7月3日 18時) (レス) @page34 id: 661d0ebc5d (このIDを非表示/違反報告)
akane0731akane(プロフ) - 面白です!更新待ってます! (2020年4月14日 22時) (レス) id: 4d9b400674 (このIDを非表示/違反報告)
水無月胡桃(プロフ) - 黒胡椒さん» ありがとうございます!!励みになります! (2020年1月30日 16時) (レス) id: 1710749122 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:水霧 | 作成日時:2019年11月30日 17時