35 実家 ページ35
「今日はありがとうございました。」
龍彦さんは家の前まで送ってくれて、私は1つ礼をした。
「いえ、こちらこそありがとうございました。」
私も1つ礼をする、すると、雪さんが出てきて私に声をかける。
「お帰りなさいませ、A様。」
雪さんは手を揃え礼をしながらそう言った後、龍彦さんにも礼をした。
「じゃあ、僕はこれで。」
「はい。」
そう言うと、龍彦さんは向こうに歩いていった。
私は雪さんの後につき家の中に入っていった。
そして、この日の後も、私は龍彦さんと何回も会った。
別に私の意思ではない。
母に、誘いを受けたなら行きなさいと、強制的に行かされたのだ。
龍彦さんと何度か会って、龍彦さんは真面目で人想いで、男らしい人だと分かった。
もうどうにもならないのなら、この人と…だなんて考え始める自分がいた。
そして、もう何回目か分からない龍彦さんと会う日。
いつもの様に待ち合わせ場所まで送って貰う。
今日の場所は遊園地。
私に初めて幸せを与えてくれた場所。
そんな場所まで塗り返されてしまうのだろうか。
そして、龍彦さんと手を繋ぎ園内に足を踏み入れる。
その瞬間、私の頭の中にはあの日の思い出が蘇った。
アトラクションの種類や景色は多少変わっているが、レトルトくんと初めて出会ったあの場所だ。
だけど、そう感じた直後、もうあの嬉しさは訪れないと思い知らされ龍彦さんの横顔を見る。
レトルトくんより少し背の高い龍彦さん。
私は、この人と上手くやっていけるのだろうか。
すると、龍彦さんもこちらを見る。
「どうしました？」
「あ、いえ、なんでも。最初、どこに行きます？」
その言葉から始まって、私達は遊園地を満喫した。
そして、帰り道。
今日も龍彦さんが家まで送ってくれた。
いつもと同じ時間が流れたが、いつもと違う出来事が起こっていた。
なんだか、玄関が騒がしい。
それに、どこか聞き覚えのある声が聞こえる。
近づくにつれ、それはハッキリとしていった。
どうやら母と誰かが揉めているようだ。
そして、誰かが私たちに気づきこちらに振り向く。
その顔は、忘れるはずがない、忘れるわけのない、見たかった顔。
その顔を見た瞬間、私の目からは自然と涙が溢れ出し、私はその人の所に駆け出していた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 7人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：シーチキン | 作成日時：2021年3月31日 17時
