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「だからこそ、Aさんに惹かれたんです。僕の兄は気弱で、幼い頃から父に従ってきました。まるであやつり人形のように、兄が存在しないかのように。僕は、兄の夢も願いも知っていました。だけど僕も、それを父に言う勇気はありませんでした。2人ともどこかもどかしい気持ちでいながら、つまらない毎日を過ごしていました。だけどそこで、僕はAさんに出会ったんです。僕と兄が出来なかったこと、自分の道を突き進むその勇気が、そこにはあったんです。だから、守りたいと思った。僕たちが出来なかったこと、Aさんには続けて欲しかったから…。」
龍彦さんはそう切なげな目をしてそう言った。
私も少し切なげな目をして口を開く。
「そう…。でも、その思いと好きとでは感情が違うのではないですか？」
私がそう言うと、龍彦さんはパッと顔を上げて言う。
「いえ！僕は、Aさんの事が好きです！」
「たった一目見た相手を、好きになることなんてきっと出来ませんよ、相手の事を、よく知ってからじゃないと…。」
「だから、僕と、もっと会ってくれませんか？」
「えっ？」
「僕の、このAさんを好きって気持ちはありますが、僕はもっとAさんを知りたいです！会って、くれませんか…？」
そう言う龍彦さんの目から、私の目が離れなかった。
時間が止まっていると錯覚させるほど、その時間が続いた。
そして、沈黙の時間を破ったのは龍彦さんだった。
「…すみません、しつこいですよね。これだから好きになって貰えないんですよね。」
そう言って龍彦さんは立ち上がる。
「さぁ、では行きましょうか。」
そう言われて私も立ち上がる。
そして、自然と差し出された達彦さんの手にいつの間にか自分の手を添えていた。
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作者名：シーチキン | 作成日時：2021年3月31日 17時
