34 服従 ページ32
私はふと顔を上げ、私の元気の源、レトルトくんと連絡を取るためにスマホに手を伸ばそうとする。
だけど、鞄に手を近づけるのを途中で止めた。
(そうだ…、スマホが無かったらレトルトくんとも連絡が取れないんだ…。)
私はなんて馬鹿なんだろうと、伸ばした手を引っ込めながらため息をついた。
そして、またうつ伏せの状態に戻った。
「レトルトくん…。」
そう呟いてみる。だけど、呟いたところで何かが変わるわけでもなく、ただ時間だけが過ぎていった。
それから、数日が経ち私は当たり前のように着物を着せられ、相手の思うがままの生活をしていた。
嫌だって気持ちは変わらないはずなのに何故か抵抗する力が生まれない。
レトルトくんに会いたいって気持ちも変わらないはずなのに、私はこういう人生だったんだと受け入れ始める自分がいた。
そして、今日は龍彦さんと会う日。
また龍彦さんが会いたいと言ったので、母が早めがいいだろうと今日になった。
龍彦さんに会ってから、大体1週間後くらいだろうか。
龍彦さんとは会えるのに、どうしてレトルトくんとは会えないんだろう。
そんな疑問まで簡単に、仕方ないで片付けるようになった。
今日は龍彦さんと2人での外出なので、久しぶりに洋服を着ることになった。
着る服はもちろん定められ、女の子らしいワンピース。
もうこんなの着る歳じゃないよ、と思いながら私は素直にそれを着た。
そして、待ち合わせ場所まで連れて行ってもらう。
普通だったら私ひとりで行かせるんだろうけど、私が逃げる可能性があるからと母が命令したんだろう。
待ち合わせ場所に行くと、もう既に龍彦さんの姿があった。
達彦さんの前まで車を進める、そして前まで来るとドアが開き私は降りた。
「おはようございます。」
龍彦さんは一旦車の方に1つ礼をすると私にそう挨拶した。
「おはようございます。」
私もそう言うと龍彦さんは優しく微笑んだ。
「では行きましょうか。」
龍彦さんはそう言ってエスコートしてくれる。
横に並んで歩き出すと、龍彦さんが口を開いた。
「今日は本当にありがとうございます。もしかしたら、来てくれないんじゃないかって、思ってましたので。」
私は龍彦さんを見上げたあと、正面に顔を戻し口を開く。
「そんな、断ることなんて出来ませんよ。ですが、私は東京にいる彼のことを諦めてはいませんから。」
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作者名：シーチキン | 作成日時：2021年3月31日 17時
