28 既視感 ページ17
そろそろ足が痛くなってきたなと思ってきた頃、遂にもう見るはずがないと思っていた城が現れた。
こうやって、車も用意されず、歩かされているのも、私のことをどうでもいいと思っているからであろう。
そして、裏門から中に入る。
中に入ると、懐かしいとは思いたくない間取りが目に入る。
家に入っても誰にも迎えられることはなく、私はただただ雪さんの後に着いて行くだけだった。
そして、一つだけオーラが違う襖の前にやってくると、雪さんは一言言い、ゆっくりと襖を開ける。
「A様をお連れしました。」
雪さんがそう告げると、何か作業をしていたあの人がパッとこちらを向いた。
「あら、意外とすんなり来たのね。…」
そう言ってその人は私をまじまじと見つめる。
私は何だと睨みを聞かせていると、その人は口を開いた。
「なんてみっともない格好。はよ着替えてきんさい。」
この人からのその言葉に私は腹が煮え切る思いでいっぱいだった。
だけど、ここで怒りを露わにしては何も始まらない。
冷静さを保たなければ。
私がそう思っていると、雪さんが口を開いた。
「それではこちらへ。」
それを聞いて、私はあの人に背を向けて、この部屋を出た。
そしてまた、雪さんに着いて行く。
すると、少しこじんまりとした部屋に来た。
中に入ると、雪さんがまた口を開く。
「それではお召し物をお持ち致しますね。」
そう言って襖を閉じると、しんとした空気が私をまとった。
私は辺りを見渡す。そして、鮮明に記憶が蘇ってくる。
そう、ここは、私の部屋だったところ。
いつも1人で、静かな部屋で、永遠の時間を過ごしていたところ。
また、あの頃に戻ったような気がして、私は無力だと言い聞かされているようだった。
だけど、私はレトルトくんに言われて決めたんだ。
負けない、って。
そう思っていると、雪さんが戻ってきたのか襖が開く。
「お召し物をお持ちしました。お着替えを。」
雪さんにそう言われると、私は素直に鞄を置き、服を脱ぐ。
本当はこんな重くてめんどくさい着物なんて着たくない。
だけど、これも先のため。
今だけは従ってなくちゃ。
そして、順調に雪さんに着物を着させてもらうと、私は一先ず足を休めようと腰を下ろした。
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作者名：シーチキン | 作成日時：2021年3月31日 17時
