逃げただけでした。#1

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心拍数が上がっているを感じながらも、私は立ち止まったままで、何も動けないままだった。





＿＿＿＿＿＿どうしよう。

あの声は多分、叶さんだ。それなりに付き合いもあって、配信も見たことがあったから、すぐ分かってしまった。





そして、その叶さんが口にしたであろう名前。

きっと私に声が聞こえるぐらいの距離に叶さんがいて、
それで............すぐ近くに葛葉もいるんだと、瞬時に理解した。






待って、どうすればいいの。
このまま顔を合わせるなんて、絶対出来ない。



冷静さを失うって、こういうことだ。

頭は軽くパニック状態で、段々と叶さんの声が近付いている気もして。どうしようと頭を捻るも、焦りばかりが募る。







反射的に辺りを見回して、ぱっと目に入った女子トイレ。多分頭で考えるよりも、体が勝手に動くように慌ててそこに駆け込んで。


そのままバクバク鳴る心臓を押さえて、ひたすら時間が経つのを待った。そろそろ良いかな、なんて思っても中々決心がつかなくて、出るのを躊躇う。















どのくらい時間が経っただろうか。


もう、大丈夫。
そう自分にそう言い聞かせてから、思い切ってお手洗いから出ると、一目散に外を目指した。




やっとのことで事務所を出ると、どっと疲労感が押し寄せる。

幸いスタッフさんには何人かすれ違ったものの、ライバーさんには誰にも会わずに済んだので、安堵した気持ちでふうっと息をついた。





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