逃げただけでした。#1

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ほんとにごめん、と申し訳なさそうに謝る叶さん。

＿＿＿＿＿＿の、横にいる葛葉は顔を下に向けているせいか、寝ているように見えた。







「タクシー代とか全部出すからさ、お願い出来ないかな？」


『えっと、』







いや。
私よりも叶さんが送った方が、いいんじゃないか？




そう思って、口に出そうとした時。

先手を打つかの様に、｢この後僕配信の予定あったの思い出してさ、頼めるのAさんしかいなくて、」と言われて。


そして終いには。






「ダメかな？」






そう首を傾げて、悲しそうな表情を見せる叶さんに、断ることが出来ず。『分かりました』と頷いてしまったんだ。








「ありがと、ガチ助かるわ」


タクシーは僕が呼ぶから、とそのお言葉に甘えて待っている間。




普段から色んな人に自分は押しに弱いって言われるけど、多分こんなところなんだろうな.......なんて1人で悶々と考えていて。


そんな時、ふとひまちゃんが私に近付いて、口を開いた。







「A、ほんまに大丈夫なん？」


『え？』






それは突然のことで、何のことかさっぱり分からず。




一瞬葛葉を家まで送ることなのだと、思ったけど。

ひまちゃんは普段見たことがない、真剣な眼差しを私に向けていて。ふと目が合った時、どきりとした。





＿＿＿＿＿＿違う。


これは葛葉のことなんじゃなくて。
ひまちゃんが聞いてるのは私自身のことなんだと、気付いた。




この感覚、覚えてる。


あの時の叶さんと、一緒だ。
何かを探ろうとする様な、見透かしている様な。そんな目だ。






『ひまちゃ、』






そしてほんの少しの沈黙の後。
その瞳は、ふんわりとした温かくて優しいものに変わった。





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