The love【kzh】

惜別 ページ15

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「おい、そこの女」




パーティが終わる合図の鐘が鳴った、数十時間後のことです。

いつものように夕日が沈む頃までお休みになられているアレクサンドル様を呼びに行こうとした時、不意に呼び止められます。





「はい」

「​お呼びになっておる」





ついに、と言うべきでしょうか。この時がやって来ました。

この世界において、人間という私の命の保証などどこにもありません。少しでも貴族の逆鱗に触れてしまえば、残酷な迄に命を経つ事になるのです。









これまでに生きていて、運が良かったと思うことが多々ありました。まずはこの身体に流れる血が稀に見られる珍しい味だったこと。次にそれを好む貴族がいたこと。


そして、アレクサンドル様にお仕えできたこと。
それに最近は、その中にもうひとつだけ増えることができました。





「しばらくあっちに戻るわ」





あっち、と言うのは人間界のことでしょう。
アレクサンドル様のように、魔界と人間界を行き来する吸血鬼は珍しいのだと聞いたことがあります。

アレクサンドル様の御家族は、専ら魔界の住人ですから。
何方にせよ、どこか羨ましい話です。





「お前、行きたいところある？」





不意に投げ掛けられたセリフに、少し頭を悩ませます。





「そうですね」
「空を⋯⋯⋯⋯空を、飛んでみたいです」





生まれてから、私は吸血鬼の為に生きてきました。
臓器も、血も、体も、心も、全て吸血鬼に捧げるため。

だから私は「外の世界(人間界)」を知りません。
生まれてから、この世界から出たことすらありません。そういう運命だと受け入れたのは、もう随分前のことです。






今まで、何度思ったでしょう。
貴族らしからぬ言動で、自由奔放に生きるアレクサンドル様を見ながら。

＿＿＿＿＿＿＿＿私もどうか、どうか自由になりたいと。





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