私がアイドルを辞める時【3】

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mondoだ。mondoがいる。うそ、と小さく息を飲んだ。




「 "はじめまして" 」




一段と低くなった声。あまりにも流暢な日本語に、そして発した言葉に息が詰まった。
はじめまして。それはどういう意味だろうか。





カムバ期間中は、毎回ファンとの接触イベントが予定されている。
メンバー1人1人が出したばかりのアルバムにサインをして、ファンからプレゼントも貰うことも出来る韓国アイドルならではのイベントだった。




「は、初めまして」




でもまさか、こんなところで再会するなんて思わなかった。それも、2年振りに。




「今回のカムバ良かったよ」
「あ、ありがとう、ございます」

「ダンスと歌、上手くなっててびっくりした」
「ほんと、ですか」




淡々と言葉を繋ぐmondoに対して、私は上手く言葉が続かなかった。言いたいこと、聞きたいことは沢山あったのに、喉に突っかえたように言葉が出てこなかった。


時間が無くなっていく。
私の背後に立つスタッフさんが、退席を急かした。





「これ」





そう言って差し出したのは、小さな紙袋だった。え、と驚く間もなく、mondoは席を立つ。




「あ、ちょっと待って下さい」




気付けば、次のメンバーへの席へと移ろうとする彼とそれを急かすスタッフさんを引き止めていた。

手元のアルバムにサラサラと、隅に小さくメモを残した。少し驚いたような表情を浮かべたmondoに、それを渡す。





「また、来てくれますか」




おもむろに、mondoが小さく首を縦に振った。私がちゃんと言えたのは、それだけだった。

アルバムの隅に小さく書き残した言葉。





" 会いに来てくれてありがとう "




覚えててくれただろうか。
嬉しかった。きっと「初めまして」ではないことは、お互い分かっていた。

短い時間だった。それでも私にとって、まるで魔法に掛けられたような時間だった。





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