七話 ページ7
「…ばか」
一松兄さんがそう小さくAに向かって呟いた。
僕がAの頬に貼り付く湿布を無理矢理剥がすと、痛そうに顔を顰めた。
それから俯いて、顔の傷を隠す。僕は左手で強引に顔を上げると、不服そうにした。
「ほら、腕の傷。まだ血が出てるでしょ」
長袖の学ランを捲った一松兄さんが、淡々と包帯を巻いて行く。
それをじっとみつめるAは、何かを呟いてすぐ口を閉ざした。なんて言ったかは分からない。
「ん」と言った一松兄さんは、Aの腕を叩いて、今度は背中を出すように指示する。
いつものように壁側を向いて背中を出すと、真っ赤になって鬱血した背中が現れる。
「…いつ見ても酷いなあ」
「……見たくないなら、見なけりゃいいじゃん」
一松兄さんの言葉を否定する。あっそ、と素っ気なく返して湿布やら何やらを張って行く。
「…痛くないの？」
僕がそう尋ねると、Aはちらっとこちらを見て、また壁に視線を向ける。
「…別に。もう慣れたし」
相変わらず不愛想だなあと笑ってやると、Aはまた何か呟いた。
「はい、終わり」
今度は少し勢いよく背中をはたく一松兄さんに、Aは肩を揺らした。なんだかんだで、この二人は仲がいい。
それに比べて、チョロ松兄さんとはどうだ。あの最悪とでもいえる仲は、はたから見ても劣悪と言える。
Aはおそ松兄さんとカラ松兄さん、チョロ松兄さんに突っかかる。それに怒るのは決まってチョロ松兄さんだ。
何も大ゲンカするほどでもないのに、と思うけど、毎回啖呵を切るのはチョロ松兄さん。
手を上げるのはA。もうどっちもどっちな気がする。
すると、下から階段を上がってくる音が響く。扉をノックする音で三人が一斉に扉を振り返った。
「怪我の具合はどう？ A」
母さんが梨を剥いたらしく、皿を片手に部屋に入って来た。
Aは一松兄さんに半ばはたかれるような形で湿布を張られる。
僕たちは母さんにお礼を言って梨を食べ始める。シャクシャクとした食感を楽しんでいると、ようやくAが梨に手を伸ばした。
「どお、美味しい？」
僕がそう尋ねると、Aはまだ口に入れてないんだけど、と呟きながら梨を口に入れた。
「美味い」その呟きを僕と一松兄さんは聞き逃さなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 148人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ルアルア(プロフ) - アイカさん» コメントありがとうございます! 一松ってチョロ松の言った通りジョーカー的存在として根強く私の中にいるので、そんな感じにしたくなりますｷﾘｯ コメント嬉しいです! ありがとうございます! (2016年10月17日 18時) (
レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
アイカ(プロフ) - う、うおおおお……！一松はほかの兄弟に真相を話すのか、話さないのか……楽しみです！コメ失礼しました！ (2016年10月15日 23時) (レス) id: a128eaf6e8 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ハルさん» コメントありがとうございます! 私自身主人公が荒くれてる系が好きで、何故か作品にも影響が…(( これからも頑張ります!! ありがとうございます! (2016年10月10日 18時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - ちーさん» コメントありがとうございます! そう言って貰えるととても嬉しいです!! 更新がとても不定期ですが、これからも頑張って参ります(真顔) (2016年10月10日 17時) (レス) id: 013413cedf (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - すっごく好きです、こういうの！続き楽しみです！ (2016年10月9日 22時) (レス) id: 7fd415952d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ルアルア | 作成日時：2016年8月29日 19時
