養護施設 “輝希” ー2ndー

夜更かし ページ17

宏太side



慧「……薮」

あれから、数日が経った。

だんだんと、涼介のいない生活にも…皆慣れてきて。

最初は少し暗い雰囲気だった施設内も……今やだいぶ明るさを取り戻しつつあった。


……問題は、侑が現れたときと……裕翔をふたりが取り合っちゃって、ちょっと大変そう、ってとこかな…

宏「どうした？」

そんなとき。


子供たちが寝静まったあとビールを軽く嗜んでいれば、珍しく伊野尾が俺の前に座った。


宏「…お前も飲む？」

慧「………1本だけ。つまみなんかあったっけ」

宏「俺キッチン入んないから知らね」


他の職員も眠る、午前0時。

本当ならもう寝なきゃだけど…何やらいつもと違う様子で、プシュッとビールを開ける伊野尾が気になって。

……今日は夜更かしだな。


宏「んで、なによ」

慧「……………」

宏「……涼介のこと？」

慧「……………うん」


ごくりと、ひとくちビールを飲む伊野尾。

そこからしばらく、お互い無言が続いた。

TVもついてないから、俺らが喋らなくなると、カチカチと時計の秒針の音だけが聞こえる。


……やがて。



慧「……ずっと考えてたんだ」


いつものふわふわした口調からは考えられないくらい、冷静な声で……そう、口を開いた。


慧「……涼介は…………本当に幸せかって」


……俺が以前言った言葉を、ずっと気にしていたのかもしれない。

俺も全く同じことを考えていたから…思わず黙ってしまう。


慧「………でも……………涼介の幸せを説明するには、あまりにも違和感がある」

宏「…………」


……俺も散々考えた。

全部演技だったのかもしれない。……本当は、ここにいたかったのかもしれない。


慧「一件落着何て言えないくらい、解決してないことが多すぎる」


疑問をたくさん…それはそれは、たくさん残して去っていった涼介。

………………本人が望む以上家族に返す他ないと警察に言われ、あの母親のもとに返したけど。


本当にそれで良かったのか、ずっと考えてきたんだ。

そして…


宏「……やれることは全部した。けど…」


あの女の家も調べたし、手続きの際もらった番号にも電話を掛けた。

……それでも、どれもあの女には繋がらなくて。
あれ以来ずっと調べてるのに………何も情報が出てこなくて。


宏「手がかりはおろか…安否さえ確認できない」


…………分かったことは、ひとつしかなかった。


宏「……こんだけ調べて何もないってことは……あの女に、何かあるってことだ」

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