Daily of Novelist

・ ページ29

大貴side


カタカタカタカタ………

大「……先生、お茶にします？息抜き大事ですよ」

涼「結構です、ちょっと黙ってて」

大「……気ぃ使ってやってんのに……」

なんだかんだで復活した先生は、今ものすごいスピードで新しいパソコンのキーボードを叩いている。

頭のなかではもう文章は浮かんでいるようで、俺はそれを黙ってみているしかない。

結局ラストの落ちは気になるところで聞けずじまいだし、どうなるのかかなり楽しみだ。

なんとなくソワソワしながら、原稿が出来上がるのを待つ。

そして…………


涼「…………………出来たっ」

大「っ、ほんとですか！」


カタっとエンターキーを押して、にやっと先生が笑った。

大「チェックしますね！」

涼「……読みたいだけのくせにぃ」

早速印刷して原稿を整理して、チェックという名の娯楽タイム。

ぺらりと原稿をめくって、俺の視線は文字を追い始めた。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

「………おい……あれ…」
つい先程まで自分を諭してくれていた、母親のような温かい声ではなく。
少し震えた弱々しい声でそう呟いて…指を、おもむろに俺の家へ向けた。
……………俺は、直視するのをためらった。
嫌な予感がしたからだ。
焦げ臭いにおいがする。人が行き交っている。いつもより騒がしい。先輩の顔が強ばって、おどろおどろしい霊でもみたかのように青ざめている……
………
………

￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣

涼「……泣いてるんですか……？」

大「っ、だってぇ…このラストォ……っ」

夢中で読んでいたら、いつの間にか涙が頬を伝っていた。

泣ける。とにかく泣ける。

ハッピーエンドだと思っていたら、衝撃的なバットエンド。そんなまさか、と思わせる物語の構成の仕方。
そしてそれに負けない細かな文章表現。
さらに、何より………自分がこの世界にいるのではないかと思わせるくらい、リアリティーを持たせる文章。

大「……最高傑作かも、しれないですね…！」

今までの小説ももちろん凄くよかったけど、今回の小説には衝撃が走った。

涼「なに言ってるんですか。最高傑作が出来るのなんて、まだまだ先です」

大「……へ……？」

……だけど、俺は甘かったみたい。
先生はこんなもんじゃなかった。


涼「………皐月涼の最高は……これからどんどん、塗り替えられていくんだから」


作家、皐月涼は………とんでもない人間だと。
この時、そう実感して……早くもこの先が、楽しみになった。

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