ある並行世界にて ページ46
私が目を覚ますと、涙を目にいっぱい溜めた妙年の男と女が側にいた。私が目を開けたのを確認するとその男女から抱きしめられる。
「良かった…」
「A…!」
生まれて初めて感じる人肌に戸惑ってしまうが、
「…だれ?」
と震える声で呟けば二人の男女は絶望の表情を浮かべた。私はその顔を見て…あぁ、どこに行っても自分は同じなのだと失望した。
どうやら私はあの日、穴から落ちた先で倒れていたそうだ。1ヶ月間行方不明となっており騒ぎになっていたとのこと。そして何かしらの事件に巻き込まれ、その事件のショックで記憶をなくした可能性が大きいと、私が目を覚ました時側にいた女性…私の母親から話を聞いた。
記憶を失った私に戸惑っていた二人も、今や生きているだけで嬉しいと笑うので胸がムズムズしてしまう。
それと同時に自分が嘘をついてしまっているようで罪悪感に蝕まれた。
さらに面会に来るのはそんな二人だけではなかった。所謂、友達と言う者…らしい。彼女は私のことを親友と呼んでいて、何日かに一度面会に来る。
記憶がない私にも親切に"大学生活"というものを教えてくれた。
この世界について何も知らない私が可笑しな質問しても真剣に答えてくれる彼女。
何故私の心配をしてくれるのか聞くと彼女は笑って
「それはAだからだよ!」
とよくわからないことを言われた。
両親や友人からの暖かさ。心地はいいがそれも全部、あの"私"が築き上げてきたものだと考えると、どうしてもどす黒い感情が浮かび上がってしまうのだ。
天気の良い日、病院の屋上に出てみた。
屋上は普段は行き来禁止となっていたが、散歩の途中で鍵が空いてのに気付いたのでお忍びで。
屋上から見る景色は、この世界の平和さを物語っている。しばらく景色を眺めていれば「お、珍しいお客さんやな」と後ろから声がした。まさか声をかけられるとは思わず、振り返る。そこには私と同じ病院の寝衣をきた青年が立っていた。
彼の顔は逆光でよく見えなかった。
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鳩山(プロフ) - えみさん» コメントありがとうございます。懸命に生きる2人と彼らの話を素敵と言っていただき本当に光栄です…!最後までご愛読ありがとうございました! (2021年2月20日 16時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
えみ - rbr推しですがshaちゃんとくっついて欲しいと思ってしまう程の作者様の文才に引き込まれました…!とても素敵な話でした! (2021年2月19日 17時) (レス) id: 1597543406 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ブンブンさん» ブンブンさん!以前もコメントして下さいましたよね?本当ありがとうございます…!良かったら番外編でもよろしくお願いします…!最高に嬉しい言葉を本当にありがとうございました! (2019年11月11日 0時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
ブンブン(プロフ) - 完結おめでとうございます!貴方の作品に出会えて本当に良かったです! (2019年11月10日 23時) (レス) id: 4a511d68cf (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - kogarashi343gooさん» コメントありがとうございます!本当に嬉しいお言葉ばかりで私からも感謝させてください!すごく励みになります…!今後は番外編然り、別作品然り、更新頑張っていくつもりですので今後ともよろしくお願い致します! (2019年11月10日 22時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
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