人災 ページ35
ケーニヒが居なくなってからと言うもの、チーノは一言も話さない。私は上体を起こしてどうにか縛られいるロープを切り離せないか試行錯誤していた。
「…何動いとるん?」
「体勢がきついの。どこか寄りかからしてもらえないかな?」
チーノは一瞬考えるように黙ったが溜息をついて私の背を柱に当たるように運んでくれた。
「…ありがとう」
「裏切り者に礼を言うとは随分と余裕やなぁ。シャオロンを俺がやったって忘れたんか?」
「忘れてないよ。このロープが切れたら絶対に一発は殴らせてもらうから」
「…おぉ。それは怖いなぁ」
肩を竦めておどけるチーノ。ここだけ見ればいつも通りの場面だ。しかしチーノは今、敵軍の軍服を見に纏い私の動きをじっと観察している。怖いのはこちらの方だと言ってやりたかったが、強がって彼を睨みつけるだけに留めた。
ドドドド
「な、なに!?」
突然地面が震えた。
ロープで縛られた私は体勢を崩して地面に叩きつけられる。
「A!」
チーノの焦った声が聞こえた。しかし私は返事をする余裕はなかった。
地面が、廃墟が、割れていたのだ。
建物が崩壊していく。手も足も不自由な私は落ちるだけ。抵抗のすべなく落ちていくと、体や頭をあちこち打った。たまたまちょうどよく柱に引っかかり、かろうじて暗い奥底の穴に落ちるのを防ぐ。
「一体、何がっ…」
痛みに耐えながら暗闇の中で目を凝らす。何も見当たらないと思っていたが飛び出た鉄柱に、兄さんからもらった銀色のホイッスルがかかっていた。衝撃で私の首から離れてしまったのだろう。
「もしピンチの時はそれを吹くとええで」と言った彼の言葉を信じて、私はホイッスルを吹いた。甲高いホイッスルの音が崩壊した建物にこだまする。
「何も、起こらない?…」
このまま死んでしまうのだろうか。一抹の不安に駆られた。そんな時、
「あはははは!これが、これこそ俺の望んだもの!!」
と憎くて仕方がない男の声が建物に響き渡る。
「ケーニヒ様!これは、一体何事ですか?」
チーノの声も聞こえた。
「何って…、我國を滅ぼす兵器だよ。たった一割の力でこれだ。本気を出せばひとたまりもない。」
「…ついに、成功したんですね。」
「あぁ。そうだ。生意気な小娘よりも"あいつ"の方が使い道は何通りもあるからな。なあ、そうだろう?」
歪んだ笑いを頰に浮かべたままケーニヒの瞳は柱によって支えられ、今にも落ちそうな私を捉えていた。
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鳩山(プロフ) - えみさん» コメントありがとうございます。懸命に生きる2人と彼らの話を素敵と言っていただき本当に光栄です…!最後までご愛読ありがとうございました! (2021年2月20日 16時) (レス) id: 9ca89ee33d (このIDを非表示/違反報告)
えみ - rbr推しですがshaちゃんとくっついて欲しいと思ってしまう程の作者様の文才に引き込まれました…!とても素敵な話でした! (2021年2月19日 17時) (レス) id: 1597543406 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - ブンブンさん» ブンブンさん!以前もコメントして下さいましたよね?本当ありがとうございます…!良かったら番外編でもよろしくお願いします…!最高に嬉しい言葉を本当にありがとうございました! (2019年11月11日 0時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
ブンブン(プロフ) - 完結おめでとうございます!貴方の作品に出会えて本当に良かったです! (2019年11月10日 23時) (レス) id: 4a511d68cf (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - kogarashi343gooさん» コメントありがとうございます!本当に嬉しいお言葉ばかりで私からも感謝させてください!すごく励みになります…!今後は番外編然り、別作品然り、更新頑張っていくつもりですので今後ともよろしくお願い致します! (2019年11月10日 22時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
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