深紅と彼女 ページ28
Aの配置された先は、東。自ら志願をした為であった。同じく東エリアを任されたのはひとらんらんとゾム。本部から一番遠い東エリアに向かう為、本日を持って他のエリアに配置されたメンバーとはお別れだ。Aは最後にどうしても顔を見ておきたい人物がいた。
しかし戦争は目前。幹部がそう易々と会う時間を作れるはずもなくついに出発の時が来た。結局彼にだけは渡せそうにないな、とポケットから赤いミサンガを取り出して、Aは雪の降る空を仰いでいた。
「A」
そんな彼女に声をかけたのは、心に浮かび上がった人物で「えっ」と飛び上がる。
「なんや、急に呼ばれて迷惑やったか?」
「そんなことはないよ───トントン」
驚きはしたものの、会えず終いであったトントンに出会うことのできたAの顔色は明るい。犬が尻尾を振るように彼に近づき、ミサンガを手渡す。
「これがAが配っとったやつやな」
トントンはそれを当然のように受け取って利き手側に付けようとする。しかし利き腕とは反対の手で、一人で頑張ってはいるものの出来ないようであった。それを瞬時に理解したAは、彼の手の中にあるミサンガを手にしてつけていく。
「こっちの手でいいの?」
「おん」
指二本分のゆとりをつけてAは手を離す。
「もうじき、戦争が始まるね」
「せやな」
「お腹はもう、大丈夫?」
Aがかつて彼が怪我をした腹部に触れる。
「大丈夫や。そんな心配はせんとはよ持ち場に着くぞ」
「…そうだね」
トントンの言葉はAの心を揺らがせる。いつもは厳格な人なのに自分の心に入れてしまえば温かく見守ってくれる本当に素敵な人だった。
「A」
彼が名前を呼ぶ。その声があまりにも優しくて、もう少しだけ、あとちょっとだけ、彼の側に居たいという欲が出てくる。
みんなはAを欲がないなんて言うがそれは違うのだ。誰よりもよく深く盲目的な自分。そんな自分が望むもののためには、間違っていると分かっていても進まなければならない。
「トントン。私、行くね」
戦場に向かう彼にこんなにも重たいものを背負わせるわけにはいかなかった。最後は笑顔で。
また彼らが笑顔で毎日を過ごせるように…
未来の、幸せを手に入れるために。
「勝つぞ」
「…当たり前だよ」
その言葉を信じて、Aは歩き出した。
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鳩山(プロフ) - 詩音さん» コメントありがとうございます…!返事がとても遅くなって申し訳ないです…!ハッピーエンドにしたくって最後書くのを頑張りましたのでそう言っていただけて本当に嬉しいです!ありがとうございました! (2020年6月7日 23時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
詩音(プロフ) - 完結おめでとうございます!最後までどうなるかわからなくてドキドキしました。ハッピーエンドが素敵すぎます…読ませていただきありがとうございます…。!これからも応援しています! (2020年3月10日 9時) (レス) id: e70b445cf3 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - カリンさん» コメントありがとうございます!頑張り屋な夢主をここまで見守ってくださって本当にありがとうございます…!素敵な物語と言って頂き大変幸せです…!これからも新作を投稿していく予定ではありますので今後ともよろしくお願いします! (2020年3月1日 0時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
カリン - 完結おめでとうございます!頑張る夢主がどういった結末を迎えるのかドキドキしながら最後まで読まさせていただきました。素敵な物語をありがとうございます!これからも応援しています! (2020年2月29日 23時) (レス) id: 84d76390cc (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!自分の書いてて楽しいお話を書かせて頂いてそのようなお言葉をいただけて私は本当に幸せ者です…。今後も新作は出していくつもりですので、ぜひ今後ともよろしくお願いいたします! (2020年2月29日 22時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
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