彼女の決意 ページ20
Aは医務室にいた。医務室の主であるしんぺい神に用事があったからだ。彼の名前を呼べば戦後の後処理に追われて忙しそうな彼が振り返る。Aはそんな彼を見て少し申し訳なく思い、「またあとでで大丈夫だよ」と笑って言えばしんぺい神は手に持っていた資料を勢いよく机に置いてAの手を取った。
「大丈夫って顔やないね。…人がおらん方がええよな?」
彼の言葉と優しさに、こくりと頷く。
彼はAの手を引いたまま、幹部ぐらいしか来ない屋上へと向かった。外は雪が降っていた。しんしんと雪がAの肩については姿を溶かしていく。
しんぺい神は白い吐息を出しながら「雪はAに似とるね」なんて言って笑う。
「雪が?」
「音もなく降ってきて、音もなく消えていく。……Aはいつか俺達に何も言わんと消えそうや。今だって、そんな顔しとる」
「…しんぺい神。あのね、」
Aはお手上げとばかりに手を挙げて雪降る灰色の空を見て笑った。彼から見た彼女は、溶けた雪が頰に伝って…まるで泣いているようであった。
「私、この軍を出て行く」
目の前の彼はその言葉にAに拳銃を向ける。
「どういうつもりや」
「みんなに幸せになってもらうためにはこうするしかないの」
Aは夢の話をしんぺい神に包み隠さず話した。彼の顔は半ば呆れている。信じてもらえなくてもそれでも良かった。
「A。確定された未来なんてないんやで。お前が出て行っても何も変わらんかもしれん。それやったら、」
Aはにこりと笑う。これで心置きなく足掻けると優しい顔をして随分と頑固な、そんな表情を浮かべていて彼は言葉を続けることが出来なかった。
.
..
...
バッドエンドは嫌いだ。
Aにとってグルッペンは、行き場のない自分に居場所を与えてくれた大切な人。彼に与えられた居場所は軍と言うのにあまりに暖かく、グルッペンの側にいる彼らもまた良い人ばかりでAは我々という組織を大切と思うには時間がかからなかった。
心の底から彼らの幸せを願っている。
大切だから、大好きだから。
こんな終わり方にさせない。
彼女は決意した。あの日トントンの怪我を庇えなかった自分を後悔した時と同じようにはさせないと。
時間を巻き戻すことなんて出来ないが、未来を変えることはきっと…出来るはず。
Aは一歩ずつ前へ歩き出す。
みんなの幸せを祈って。
彼らの笑える
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鳩山(プロフ) - 詩音さん» コメントありがとうございます…!返事がとても遅くなって申し訳ないです…!ハッピーエンドにしたくって最後書くのを頑張りましたのでそう言っていただけて本当に嬉しいです!ありがとうございました! (2020年6月7日 23時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
詩音(プロフ) - 完結おめでとうございます!最後までどうなるかわからなくてドキドキしました。ハッピーエンドが素敵すぎます…読ませていただきありがとうございます…。!これからも応援しています! (2020年3月10日 9時) (レス) id: e70b445cf3 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - カリンさん» コメントありがとうございます!頑張り屋な夢主をここまで見守ってくださって本当にありがとうございます…!素敵な物語と言って頂き大変幸せです…!これからも新作を投稿していく予定ではありますので今後ともよろしくお願いします! (2020年3月1日 0時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
カリン - 完結おめでとうございます!頑張る夢主がどういった結末を迎えるのかドキドキしながら最後まで読まさせていただきました。素敵な物語をありがとうございます!これからも応援しています! (2020年2月29日 23時) (レス) id: 84d76390cc (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます!自分の書いてて楽しいお話を書かせて頂いてそのようなお言葉をいただけて私は本当に幸せ者です…。今後も新作は出していくつもりですので、ぜひ今後ともよろしくお願いいたします! (2020年2月29日 22時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
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