【d!】大好きだから、さようなら【軍パロ】

水色の後悔 ページ15

「なあ、ほんまに実行するんか？」

きっとこの軍で、自分だけが彼女の本当の理解者であった。戦前の彼女の顔はいつもよりも引き締まっていて…あぁ戦いが始まると、嫌でも理解してしまう。
しんぺい神の問いに対して彼女は小さく微笑んで、頷いた。

「後悔は、ないんか？」
「しんぺい神が一番分かってるでしょ。私は、みんなに幸せになってほしいの」
「せやけど…」

生半可な覚悟ではないことは重々承知だ。
だって、彼女は…

「死にに行くんやぞ」
「分かってる」
「それにただ、死にに行くんとは違う。Aが大切に思っとったあいつらに誤解されたまま…敵と見なされたまま殺されるんや。それがどれだけ辛いか…分からんのか…っ」

懇願。頼むからやめてくれ、と。
そうだね、やめるよ、と彼女の口から言ってほしかった。しかし彼女は死を前にしても笑うばかり。ある意味で壊れているとしか言いようがない。

知らぬ間に自分は拳を強く握りしめていたらしい。それに気付いたAが彼の側までやってくると、相変わらず小さい手でそっとしんぺい神の拳を、上から握りしめた。


「しんぺい神、ありがとう。あなたがいたから、私は心配なく行けるんだ。確定された未来なんてないって言ってくれたのはあなたでしょ？だから、

未来を変えるために、私は足掻くよ」


彼女を引き止めたかった。
だが、それは出来ない。
彼女には彼女の"正義"がそこにあったから。

「頑固なところはほんっまに変わらんな」
「うん。私は頑固で、欲張りだからね」

笑った彼女に、してあげること。
それは彼女が好んだ笑顔で送り出すことだ。

しんぺい神の困ったような笑顔を見たAは、相変わらず困り眉のまま嬉しそうに微笑んだ。自分のことを欲張りなんて言うが彼女ほど欲のないものは居ない。

「じゃあ、行ってきます」
「……おん。行ってらっしゃい」

自分は君の唯一の理解者で、唯一の共犯者。

「優しい君に、幸あらんことを…」

医務室の扉が閉まる。
しんぺい神の言葉が届いたのか、それは定かではないが確かに彼は彼女の幸せを願った。

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