深緑の後悔 ページ3
意外にもAという子供が来た時、世話役を任せられたのはオスマンであった。グルッペンに自分ではなく他に適任がいるだろう、と抗議したもののそれは受け取ってもらえず月日だけが流れる。
一応、世話役。
しかしオスマンが自ら彼女に関わることなんてほとんどなかった。
ある日、初めてAに自分から声をかける出来事があった。それは彼女が軍に来てから半年が経った日。エーミールの管理する図書館に、Aも居たのだ。
オスマンに気付いた彼女はこちらに気付くと一礼して目の前を通り過ぎて行く。オスマンは本を読むフリをしてそんな彼女の行動を盗み見ていた。
彼女が低い身長で、必死に背伸びして、届くはずのない本に手を伸ばす。そんな姿が何だか酷く滑稽で、面白くなってしまった。
彼女の後ろに回って、わざと自分との身長差を見せつけるように本を取ってやる。
「こーんな小さい奴が軍人とはなぁ」
「あっ…」
さて、自分の嫌味な態度に彼女はどんな反応をするのだろうか。頼むからがっかりはさせないでくれ、と好奇心を覗かせる内なる猫が言う。
「…ありがとうございます…っ」
ふわふわ、にこり、
たぶん彼女を表すのにこれ程適した表現はない。それぐらい彼女は風に吹かれる花のように優しく笑ったのだ。
半年間、自らの世話役と言われた男に無視され続けて…あなや高圧的な態度で接されたというのに。
「…自分、俺のことが嫌やないん？」
「えっ？いや、ですか…？」
「だって俺、君の世話役なのに君のこと無視しとったやん。今やって君の名前すら知らんし」
キツイ口調で問う俺に、目の前の少女は俺から受け取った本を大事そうに抱き抱えて笑うのだ。
「でも、オスマンさん。遠目から見守ってくださってましたよね？私が困らないように
……それが父のようで、私はとても嬉しかったんですよ」
「…父、？」
遠目から、されど遠目だ。確かにチラチラ彼女を目にはしていたが特別に手を貸した覚えなんてない。
「そうです。今、私が困っている時に手を貸してくださった…。それだけで私はとても幸せなんです」
「随分と、安っぽい幸せやなぁ」
好奇心は猫をも殺すと言うが、この場合猫すら懐くだ。あまりにも軍には似つかない彼女をもっと知りたい、とそう思ってしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 349人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鳩山(プロフ) - 詩音さん» コメントありがとうございます…！返事がとても遅くなって申し訳ないです…！ハッピーエンドにしたくって最後書くのを頑張りましたのでそう言っていただけて本当に嬉しいです！ありがとうございました！ (2020年6月7日 23時) (
レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
詩音(プロフ) - 完結おめでとうございます！最後までどうなるかわからなくてドキドキしました。ハッピーエンドが素敵すぎます…読ませていただきありがとうございます…。！これからも応援しています！ (2020年3月10日 9時) (レス) id: e70b445cf3 (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - カリンさん» コメントありがとうございます！頑張り屋な夢主をここまで見守ってくださって本当にありがとうございます…！素敵な物語と言って頂き大変幸せです…！これからも新作を投稿していく予定ではありますので今後ともよろしくお願いします！ (2020年3月1日 0時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
カリン - 完結おめでとうございます！頑張る夢主がどういった結末を迎えるのかドキドキしながら最後まで読まさせていただきました。素敵な物語をありがとうございます！これからも応援しています！ (2020年2月29日 23時) (レス) id: 84d76390cc (このIDを非表示/違反報告)
鳩山(プロフ) - 琥珀さん» コメントありがとうございます！自分の書いてて楽しいお話を書かせて頂いてそのようなお言葉をいただけて私は本当に幸せ者です…。今後も新作は出していくつもりですので、ぜひ今後ともよろしくお願いいたします！ (2020年2月29日 22時) (レス) id: 55161d9c8c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
